F.C.E.U. 宗教学・社会学調査レポート:前駆文明における「マウナ真理教」の終末期活動痕跡について
レポートID: FCEU-RSS-REP-2-014
主任調査官: サキ・アオイ
日付: 大沈黙後 5.1年
1. 調査概要
本調査は、旧公安調査庁の報告書(文書ID:PSIA-ANNUAL-REP-2025-SEC4)で予測された社会変容の考古学的検証を目的とする。具体的には、「オペレーション・サイレント・パージ」以降、特定の組織を失い、「内在性コミュニティ」として思想のみが拡散した旧「マウナ真理教」の信奉者たちが、社会の最終期にどのような物理的痕跡を残したかを分析する。
彼らは後世に残すための記念碑的な建造物を一切構築しなかった。そのため、彼らの活動の痕跡は、旧文明の日常空間の中に、極めて静かな形で点在している。
2. 主要な発見
① 「聖域」の物証
旧調査庁が「内向的移住」と定義した人口移動の終着点――すなわち、沿岸部や山間部の過疎集落において、我々は「内在性コミュニティ」が使用したと見られる複数の「聖域」を発見した。
これらは教会や寺院ではなく、ごく普通の民家や廃校、公民館の一室である。共通する特徴は、あらゆる情報伝達機器が、意図的かつ儀式的に破壊・無力化されている点にある。テレビはスクリーンが割られ、本はページが引き裂かれ、スピーカーは内部がコンクリートで満たされている。これは、旧報告書が指摘した「言葉の洪水」からの物理的・完全な断絶を試みた痕跡に他ならない。
部屋の中央には祭壇らしき低いテーブルが置かれているが、偶像や経典はない。ただ、磨かれた白い石や澄んだ水の入ったボウルが置かれているのみである。これは、特定の信仰対象ではなく、「静寂」という状態そのものを崇拝の対象としていたことの物証と考えられる。
② 「言語放棄の儀式」の痕跡
沈黙を教義とした彼らだが、いくつかの聖域の壁や床には、チョークなどでただ一つの単語が記されていた。
それは教義や祈りではなく、極めて具体的な名詞や短い感謝の言葉である。「水」、「空」、「ありがとう」など。
我々はこの行為を、彼らが完全な沈黙、すなわち言語機能の放棄に入る前に行った「言語放棄の儀式」と結論付けている。自らが最後に認識した世界の一部に名を与え、感謝することで、彼らは言葉という道具との決別を果たしたのだ。
3. 「ハッシュ」散布区域における最終状況
マークス大将による薬品「ハッシュ」の散布区域では、この思想の最終形態が保存されている。
聖域では、信者たちの遺体が、中央の祭壇を囲んで穏やかな表情で座禅を組んだまま発見された。争った形跡も、苦しんだ形跡も一切ない。
彼らは「ハッシュ」を外部からの攻撃と認識せず、むしろ自らの思想が予見した究極の救済――「大いなる沈黙」の到来と見なし、受容したものと推測される。
4. 結論:社会的アノミーの考古学的実証
マウナ真理教の信奉者たちは、その最終段階において、旧公安調査庁が予測した通りの社会的病理を体現していた。彼らは、ロゴス・ウイルスという病に対し、文明全体の「安楽死」という処方箋を実践したのである。
彼らは大沈黙と戦わなかった。彼らはそれを歓迎し、そのための舞台として「聖域」を整え、社会機能が完全に停止する前に、自らの終焉の儀式を執り行っていた。
第七人類の他の遺跡が、生存への「闘争」の痕跡に満ちているのに対し、彼らの聖域が示すのは、ただ「受容」の考古学である。これは、旧調査庁が予測した「アノミー(社会規範の崩壊)の穏やかなる帰結」が、思想的・社会的なレベルだけでなく、物理的な現実として、確かに存在したことの動かぬ証拠である。




