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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
51/83

公安調査庁 年次報告書(抜粋):特定思想団体「マウナ真理教」の活動終息と、その後の残存因子について

 文書ID: PSIA-ANNUAL-REP-2025-SEC4

 日付: 大沈黙の6ヶ月前

 分類レベル: 機密 (CONFIDENTIAL)


 1. 「オペレーション・サイレント・パージ」以降の活動状況


 国会議事堂周辺占拠事件、通称「オペレーション・サイレント・パージ」への対処として行われた、全国50ヶ所以上の関連施設への一斉摘発、及び、指導者層全員の逮捕・隔離は、組織としての中央集権的機能を完全に破壊した。

 これにより、特定思想団体「マウナ真理教」は、組織としては、事実上、活動を終息(解体)したと結論付けられる。

 残存した信徒たちは、再度の武装蜂起や、地下組織化といった動きを見せることなく、まるで水が砂に染み込むように、社会の中へと、ただ、拡散していった。


 2. 残存因子の分析:「内在性コミュニティ」の形成


 組織の解体は、思想の消滅を意味しなかった。

 現在、我々が最も注視しているのは「内在性コミュニティ」と呼称する、新たな活動形態である。

 これは、特定の指導者や拠点を持たない、血縁や、ごく親しい友人関係をベースとした、数名単位の極小コミュニティである。彼らは、外部に対して一切の働きかけを行わず、自らの生活空間の中だけで、マウナ真理教の教義――すなわち、自発的な言語の放棄を静かに実践している。


 これらのコミュニティは、非暴力・非接触であり、外部からその存在を特定することは、極めて困難である。彼らは、社会の中に、検知不能な情報の「ブラックホール」を、無数に形成しつつある。


 3. 広域社会現象としての「内向的移住」


「内在性コミュニティ」の形成と並行し、より広範な社会現象として「内向的移住」が観測されている。

 これは、マウナ真理教の信徒に限らず、原因不明の認知機能障害に悩む一般市民までもが、自発的に大都市圏を放棄し、特定の地域へと移住する大規模な人口移動を指す。移住先は、沿岸部の漁村や山間部の過疎地域など、人口密度が低く、第七人類時代の情報インフラが希薄な地域に集中する傾向が確認されている。


 我々の分析では、彼らを動かしているのは教義による洗脳ではなく、現代社会が発する過剰な情報――いわば「言葉の洪水」――から逃れようとする、より本能的な自己防衛機制である。彼らは安全な「静寂」を求め、自ら社会の周縁部へと向かっているのだ。


 この一連の動きは、特定の組織による扇動や強制といった証拠が確認されない限り、個人の自由意志に基づく権利の行使と見なされる。したがって、現行法下において、この静かなる社会構造の変容に直接介入することは極めて困難である。


 4. 結論


「オペレーション・サイレント・パージ」は、集権的な組織構造を破壊するという戦術的目的においては成功した。しかし、これは結果として教団という有形のコンテナからその思想内容を解放し、社会に拡散させる触媒として機能した。組織の解体は、逆説的にその思想のミーム化、すなわち自己増殖的な文化情報としての伝播を促進したと言える。


 したがって、我々が対峙する問題は、もはや特定の敵対組織という外的脅威ではない。それは、社会システム内部に発生した構造的な機能不全、すなわち一種の社会的病理へと変質したのである。


 マウナ真理教という組織は消滅した。しかし、彼らが提示した「沈黙による救済」という価値観は、今や無数の個人の自発的選択に支えられ、新たな社会規範として形成されつつある。これは、トップダウンの強制ではなく、ボトムアップの集合的行動によって社会が再編成される過程に他ならない。


 この社会変容の先に待つのは、暴力的な紛争による崩壊ではない。それは、過剰な社会的インタラクションから離脱する人々の消極的受容がもたらす、アノミー(社会規範の崩壊)という名の、静かなる秩序の終焉であると結論付けられる。

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