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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
50/83

サキ・アオイ 個人ログ#2666

 ログID: LOG-PERSONAL-SAKI-0822-2666

 記録者: サキ・アオイ

 記録場所: 施設「アーク」個人居住区画にて

 日付: 大沈黙後 4.2年


[音声ログ記録開始]


(数秒の沈黙。微かな換気扇の音)


 サキ・アオイ、個人ログ。

 …報告書を、提出した。事案ID、DENV-CRIME-001。

 なんと無機質で、清潔な名前だろう。あの、おぞましい出来事に。


 彼の目は、どうでもいい。あの男の目には、予測可能な、ありふれた獣の光があっただけ。

 忘れられないのは、彼女の目だ。

 被害者の、あの、何も映さない瞳。

 痛みも、恐怖も、屈辱も、そこにはなかった。ただ、空っぽの、硝子玉のような静かな瞳。

 それが、何よりも恐ろしかった。


 私は、考古学者になることを選んだ。

 声なき死者に、声を与えるために。

 土に埋もれたひと欠片から、それを使っていた人の生活を、想いを復元するために。

 過去の沈黙の中に「意味」を見出すのが、私の仕事だった。


 では、この一件に存在する()()の意味は何?


 我々は、文明の全てを「第二次バベル協定」という、たった一つの教義の上に築いた。

『沈黙は、壁である』

『知識は、管理されるべき毒である』

『接続は、弱さである』


 私たちはロゴス・ウイルスという、思考を殺す怪物を恐れるあまり、自ら思考を放棄する道を選んだ。

 私たちは、壁を築いた。安全で、静かで、秩序正しい壁を。


 でも、私たちは間違っていた。

 沈黙は、壁などではなかった。

 沈黙は、ただの「真空」だ。そして、真空は必ず、何かによって満たされる。

 今日、それは卑小な男の、矮小な欲望によって満たされた。

 では、明日は?明日は、一体、何があの静寂を満たすのだろう。


 私の任務は、第七人類がなぜ、滅びたのかを解明することだった。

 だが、もうそんなことはどうでもいい。

 今、問われるべきはそれではない。


 問うべきは我々、第八人類がこれからどう生きるべきかだ。


 私は、もうただの過去の考古学者ではいられない。

 未来の建築家にならなければ。

 私は、あの「不干渉プロトコル」と戦う。H-住民たちの、失われた人権のために、彼らの代わりに私が声を上げる。評議会に、彼らが作り出したこの静かな地獄と向き合わせる。


 あるいは、これこそが「第一次接触調査部隊」の、本当の任務なのかもしれない。

 我々が最初に接触し、調査するべき、未知の異星人とは…我々自身のことなのだ。

 混沌として、饒舌で、愚かな「人間」であることよりも、秩序だった静かな「家畜」であることを選んでしまう、我々の、心の中にいる、見知らぬ誰かのことなのだ。


 …私の仕事は、まだ始まったばかりだ。


 サキ・アオイ、ログ終了。


[ログ記録終了]

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