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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
45/83

施設「アーク」セクターB 通信ログ(暗号化チャンネル)#1

 ログID: LOG-B-SECURE-2811-01

 通信者:


 ID: SAKI.A (サキ・アオイ)


 ID: ELENA.P (エレナ・ペトロヴァ)

 日付: 大沈黙後 2.6年


[通信ログ記録開始]


<セキュアチャンネル確立>


[14:02] SAKI.A: ペトロヴァ博士。お時間をいただき、ありがとうございます。考古学部門のサキ・アオイです。


[14:02] ELENA.P: アオイ博士。あなたのクリアランスレベルで、私との直接通信を要求するからには、よほどのことなのでしょう。要件を。


[14:03] SAKI.A: はい。ファイルID GH-771-B の再評価を、非公式にお願いしたく。第七人類の、ある母親が遺した、個人的な日記です。AIは、これをクラスI(安全)に分類しています。


[14:04] ELENA.P: クラスIの、個人的な日記。悲しいだけの、ただの幽霊の囁きでしょう。なぜ、それが問題に?


[14:05] SAKI.A: 博士、この日記には、彼女が自分の子供に歌っていたという「子守唄」の歌詞が、繰り返し記録されています。意味不明な、音の羅列です。AIは、これを「幼児語、あるいは末期GPAによる言語崩壊」と判断しました。


[14:06] SAKI.A: ですが、私は、これを別の遺物とクロスチェックしました。ファイルID TECH-25-S7。第七人類のエンジニアが、通信障害レポートの追記に「気味が悪い」と記した、あの文字化けパターンです。


[14:07] SAKI.A: 博士、聞いてください。子守唄の音の羅列を、音楽の階名に変換し、その周波数パターンを、エンジニアの報告した文字化けのバイナリコードと比較したところ…構造が、完全に、一致したのです。


(ターミナルに、15秒間の沈黙。エレナ側の入力インジケータが、点滅を繰り返している)


[14:08] ELENA.P: …続けなさい。


[14:09] SAKI.A: これは、無意味な言葉の崩壊ではありません。これは、意図的に作られた、意味を持たない、安全な「言葉」なのではないでしょうか。母親は、自分の子供をL-ウイルスから守るために、ウイルスが媒介として認識できない、全く新しい「音の言語」を、必死に、発明しようとしていたのでは…?


[14:10] ELENA.P: …あなたは、それを「言語」と呼ぶのですね。


[14:11] SAKI.A: はい。それは、絶望の中で、愛する誰かを守ろうとした、第七人類の、最後の…抵抗の言葉です。AIには、その「意図」が理解できなかった。だから、安全だと判断した。でも、これは、安全だから見過ごされた、最も重要な、遺物かもしれません。


(再び、長い沈黙。今度は、エレナからの応答が、1分近く途絶える)


[14:12] ELENA.P: …アオイ博士。あなたは、墓の中から、何を見つけ出したか、理解していますか?


[14:13] ELENA.P: これは、ウイルスの研究ではない。これは、抗体の研究です。第七人類が、自らの精神を犠牲にして作り出そうとした、不完全で、おそらくは失敗に終わった、ワクチンです。


[14:14] ELENA.P: あなたは、正しい。AIは、悪意と脅威は検知できる。しかし、愛や希望といった、最も非論理的で、最も人間的なパターンを理解できない。


[14:15] ELENA.P: …今すぐ、私の研究室に来なさい。セクターBの、最奥。ID ELENA.P で、ロックが解除される。誰にも、見られてはなりません。

 これから、私たちは、第七人類が本当に遺したかった「歌」を解読します。


[14:16] SAKI.A: …はい、博士。


<通信ログ記録終了>

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