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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
40/83

第八人類歴史学用語集より抜粋

 項目ID: 001-A

 項目名: 大沈黙だい ちんもく / The Great Silence


 1. 定義

「大沈黙」とは、約120年前に、我々の前駆文明である「第七人類」を、完全に、かつ極めて短時間のうちに絶滅に至らしめた、全球規模の事象を指す総称である。

 核戦争や天体衝突といった、物理的破壊を伴う他の絶滅シナリオとは異なり、社会インフラの大部分をほぼ無傷のまま残し、文明の「活動」のみが停止した点に、その最大の特徴がある。


 2. 現象の経過と特徴

『海の書』の解析によれば、「大沈黙」は、ある日突然訪れたわけではない。その数年前から、世界各地で、後に「ロゴス・ウイルス」の初期症状と見なされる、様々な前兆が記録されている。


 初期段階(約3年~1年半前):

 AIの認識エラー、個人の軽微な失語や記憶障害、原因不明の低周波音(The Hum)といった、一見すると無関係な、小規模な異常が多発。


 中期段階(約1年半前~数ヶ月前):

 異常が社会システムに影響を及ぼし始める。航空パニックや、AIの暴走による金融市場の崩壊(沈黙の火曜日)、政治家の答弁不能といった公の混乱が発生。同時に、「マウナ真理教」のような、終末論を掲げるカルトが勢力を拡大し、社会不安が増大した。


 末期段階(当日):

 最終日、第七人類の国際宇宙ステーション(ISS)は、地上からの通信が、数時間の「絶叫の嵐」の後に、完全に途絶するのを観測した。その後、地球の夜側を照らしていた文明の光が、まるで潮が引くように、数時間のうちに、次々と消えていった、と記録されている。この瞬間をもって、「大沈黙」は完成した。


 3. 原因

 アーリン・ミナカタ博士が提唱し、現在、文明復興庁の公式見解となっている「ロゴス・ウイルス仮説」が、最も有力な原因とされている。

 これは、生物学的な病原体ではなく、第七人類が発達させた高度な「言語」と、それを媒介する「グローバル・ネットワーク」に寄生した、自己増殖する情報災害であった。

 人間の脳を含む、高度な認知システムがこの情報パターンを処理しようとすると、思考のOSそのものが、回復不能なエラーを引き起こし、最終的に機能停止(=沈黙)に至る。

 ミナカタ博士は、これを、一定の情報的複雑性を達成した文明を、宇宙のシステム自体が定期的に「剪定」する、「知性的グレートフィルター」の一種ではないか、とも推測している。


 4. 後世(第八人類)への影響

「大沈黙」は、我々第八人類の文明における、最大のトラウマであり、全ての社会システムの基礎設計における、唯一の前提条件である。

 その再来を阻止することを至上命題として、我々の社会の根幹をなす「第二次バベル協定」は批准された。言語、知識、そして技術に対する我々の厳格な管理体制は、全て、この沈黙の悲劇の上に成り立っている。

「大沈黙」の研究は、我々が、我々自身の知性によって、再び滅びないために課せられた、永遠の責務である。


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