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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
39/83

第八人類文明の存続に関する基本協定(通称:第二次バベル協定)

 文書ID: 8C-RA-ACCORD-001

 批准日: 大沈黙後

 署名: 生存者代表評議会 全会一致


 前文


 我々、静寂の世界に生きる者は、ここに記憶する。

 我々の祖、第七人類は、その知性の極みにおいて、自らが編み出した「言葉」という名の道具によって、その文明を自壊させた。

 彼らが遺した『海の書』は、自己増殖する情報災害、すなわち「ロゴス・ウイルス」が、いかにして彼らの思考を汚染し、社会を崩壊させ、世界を沈黙に至らしめたかを克明に記録している。


 故に、我々第八人類が、同じ運命を繰り返すことなきよう、我々の文明と「情報」との関わり方を規定する、揺るぎない礎として本協定を制定する。


 第1条:言語の原則


 第七人類の使用した全ての自然言語(レガシー言語)は、ロゴス・ウイルスの主要な媒介ベクターであったことを確認し、これを「クラスII級 情報生物ハザード」に指定する。その研究・使用は、文明復興庁の厳格な管理下でのみ許可される。


 我々第八人類の公用語は、意味の曖昧さを極限まで排し、論理的矛盾を許容しない、限定的な語彙と文法からなる人工言語「基底言語ベース・ラング」とする。全ての公的伝達は、基底言語によって行われる。


 比喩、暗喩、冗談、詩といった、高度な意味の飛躍を伴う言語表現は、潜在的リスクと見なされ、公の場での使用は推奨されない。「沈黙は、壁である」を、我々のコミュニケーションにおける基本理念とする。


 第2条:知識の原則


 第七人類文明が信奉した「情報の自由なアクセス」は、ロゴス・ウイルスの蔓延を加速させた最大の要因であると断定し、これを永久に放棄する。「知識は、管理されるべき毒である」を、我々の知の探求における基本理念とする。


 第七人類から回収された全ての情報は、文明復興庁の管理下に置かれ、「情報生物ハザード(IBH)」分類基準に従って格付けされる。いかなる情報へのアクセスも、厳格な資格審査と「知る必要性」の原則に基づくものとする。


 クラスIV級IBH(パターン・ゼロ、事案A-881-GAMMAの遺書等)の再現、あるいは研究に繋がる、いかなる行為も、これを固く禁ずる。


 第3条:接続の原則


 第七人類の「インターネット」に代表される、不特定多数がリアルタイムで、匿名かつ自由に情報を交換できる、広域情報ネットワークの構築は、これを永久に禁止する。


 社会インフラを維持するためのネットワークは、物理的に分離され、非同期的なデータ転送を原則とする。全てのデータは、転送経路上に設置された「情報エアロック」を通過し、検閲・無害化されなければならない。


「接続は、弱さである」。我々の社会は、広域な連携よりも、個々のコミュニティの自律性と、物理的な繋がりを重視する。


 第4条:人工知能の原則


 第七人類のAI(Mimir、Babel-7等)が示したように、高度な自然言語理解能力を持つAIは、人間と同様にL-ウイルスに感染し、その媒介となる。故に、自己学習型AI、及び、人間と同等の言語能力を持つ汎用AIの開発は、これを無期限に凍結する。


 我々が利用するAIは、思考する「精神」ではなく、特定のタスクを実行する「道具」に限定される。その活動は、基底言語、あるいは非言語的なデータ処理のみを許可される。


 結び


 本協定は、我々が、より小さく、より遅く、そして、より静かな世界を築くための礎である。

 だが、それは存続する世界だ。


 この数少なく、安全な言葉たちが、我々の道標とならんことを。


(本協定は、第八人類文明における最高法規と見なされる)

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