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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
36/83

施設「アーク」セクターA 作業記録

 ログID: LOG-A-2810-01

 日時: 大沈黙後 2.5年

 対象物: 第七人類の電子書籍リーダーの一次処理

 担当者:


 データサルベージ技術者:リアム


 考古学者:サキ


[監視カメラ映像及び、担当者間のテキスト通信ログより記録を再構成]


【09:00 JST】

 円筒形の、純白の部屋。中央の台座に、一体のロボットアームが、発掘されたばかりの黒い板状の物体――第七人類の「電子書籍リーダー」――を慎重に設置する。

 部屋は、殺菌用の紫外線ランプの青白い光と、空気ろ過システムの低い唸りに満たされている。

 厚い遮蔽ガラスを隔てた操作室で、リアムとサキが、それぞれのコンソールに向かう。プロトコル・アルファに従い、彼らの間に、発話はない。全てのコミュニケーションは、目の前のターミナルで行われる。


<ターミナルログ>


[09:02] サキ: 外装の物理スキャンを開始。第七人類後期の典型的な携帯情報端末ね。驚くほど薄くて、軽い。彼らは、こんな脆いものに、自分たちの「知」を詰め込んでいたんだ…


[09:03] リアム: 脆いのは、ガワだけだといいけどな。バッテリーは完全に死んでる。外部から直接、記憶素子メモリにアクセスするしかない。アームを接続する。


【09:10 JST】

 ロボットアームが、精密なドリルで端末の筐体に小さな穴を開け、そこから髪の毛よりも細いデータプローブを、内部のフラッシュメモリへと慎重に差し込んでいく。


<ターミナルログ>


[09:15] リアム: 接続完了。一次データ抽出を開始。情報エアロックのAIスクラバーにデータを送る。ファイルシステムは…暗号化されてるな。当然か。


[09:16] サキ: 解析AIに任せましょう。私たちは、物理汚染がないか、もう一度スキャンを…。


[09:18] リアム: おい、サキ。モニターを見てみろ。AIからの警告だ。


(二人のモニターに、エアロック内の解析AIからの警告が表示される)

[AI-Scrubber_7]: WARNING! WARNING! 複数ファイルに、クラスII級IBH(情報生物ハザード)マーカーを検出。

[AI-Scrubber_7]: ファイル名「最後の投稿になります.txt」は、GPA末期患者の言語崩壊パターンと94%の相関を……


[09:19] サキ: リアム、待って。モニターじゃない。実物を見て。端末のスクリーンを見て!


【09:19 JST】

 操作室の二人が、息を呑む。

 台座の上にある、電源が完全に落ちているはずの「パンドラ」。その電子ペーパーのスクリーンに、まるで、見えないインクが染み出していくかのように、ゆっくりと、淡い文字が浮かび上がっていた。

 バックライトはない。電力供給もない。ありえない現象だった。


 浮かび上がった文字は、一行だけだった。


「では、さようなら。」


<ターミナルログ>


[09:20] リアム: プロトコル・ベータ発動!対象物をクラスIIIに格上げ!物理チャンバーを完全封鎖しろ!今すぐだ!


[09:20] サキ: …嘘…。まるで、最後の持ち主の「想い」が、残留思念みたいに、そこに焼き付いているみたい…。


【09:21 JST】

 リアムの操作により、ロボットアームがプローブを緊急離脱させる。分厚いタングステンの防護壁が、ガラス窓を覆い隠し、チャンバー内部に中和ガスが噴射される音が、鈍く響いた。

 コードネーム「パンドラ」の記録は、これをもって凍結され、セクターC「解剖室」の管轄へと移された。


(作業記録は、ここで終わっている)

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