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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
34/83

施設「アーク」立地選定理由書(要約版)

文書ID: 8C-RA-FMD-SSR-001

作成部署: 文明復興庁 施設管理部

日付: 大沈黙後


1. 序論:選定の基本理念

情報生物ハザード隔離研究施設「アーク」の立地選定にあたり、我々が最優先としたのは「絶対的な隔離」である。

それは、物理的、生物学的、そして何よりも「情報的」な隔離を意味する。

偶発的に何かが流れ着くことがなく、そして、万が一にも、そこから何かが漏れ出すことのない場所。それが、我々が求める唯一の条件であった。


2. 地理的・物理的優位性:死の海

タクラマカン砂漠。

第七人類の時代の言葉で、その名は「一度入ったら、二度と生きては出られない場所」を意味すると言われていた。これほど、我々の目的に合致する場所はない。

ユーラシア大陸の中心に位置し、いかなる海洋からも、かつての主要な文明圏からも、最も遠い場所の一つである。地表は、年間を通じて吹き荒れる砂嵐と、夏は摂氏50度、冬は氷点下20度に達する極端な気温差に支配されている。

生命を拒絶するこの過酷な環境そのものが、アークを守る第一の、そして最も信頼できる防壁となる。


3. 情報的優位性:偉大なる空白

タクラマカン砂漠中央部は、第七人類にとって、文字通り「空白地帯」であった。


インフラの不在: この一帯には、彼らの文明の神経網であった光ファイバーケーブル網が、一切敷設されていなかった。主要な通信基地局も、データセンターも存在しない。これは、過去の「情報の亡霊」による汚染リスクが、限りなくゼロであることを意味する。


電磁的な静寂: 極度に乾燥した大気と、特異な地質構造により、この地域は、地球上で最も背景電磁ノイズが少ない場所の一つである。これは、第七人類の遺物から発せられる、極めて微弱な「情報的シグナル」を、他の何にも邪魔されることなく、高精度で観測できる、唯一無二の環境であることを示している。


ここは、言葉が、音声が、そしてデータが、自然に還り、死んでいく場所だ。

故に、我々が、彼らの言葉の死体を安全に解剖できる、唯一の場所なのである。


4. 結論

タクラマカン砂漠は、その過酷さにもかかわらず選ばれたのではない。その過酷さ故に、選ばれたのである。

アークは、人類史上最も危険な「思想」を封じ込めるための牢獄である。その建設には、地上で最も完璧な牢獄が必要だった。

タクラマカン砂漠は、単なる建設地ではない。それ自体が、我々の封じ込め戦略における、第一の城壁なのである。


(この選定理由は、アークの存在意義そのものを定義するものとして、最重要文書に指定されている)

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