表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
32/83

文明復興庁 遺物取扱規定 補遺B:情報生物ハザード(IBH)分類基準

 文書ID: 8C-RA-AHR-ADD_B-001

 分類レベル: 機密(CONFIDENTIAL)

 発行日: 大沈黙後


 1. 序文

 本規定は、第七人類文明の遺物から発見される、特有の脅威に対する安全基準を定めるものである。

「情報生物ハザード(Info-Biohazard / IBH)」とは、物理的・生物学的な手段ではなく、情報そのものを媒介として、第八人類たる我々の認知・精神の健全性を脅かす、あらゆるオブジェクト、データ、あるいはパターンと定義する。

 本分類基準の遵守は、全調査員及び研究員の安全を確保し、「大沈黙」の再来を阻止するための、最優先事項である。


 2. ハザードレベル分類


 クラスI:要注意情報 (Information of Concern)


 定義: L-ウイルスの直接的なパターンは含まないが、その存在や影響について言及している情報。間接的な精神負荷を与える可能性がある。


 具体例: 第七人類の一般的なニュース記事、気象データ、汚染初期の無害な個人の日記。


 取扱規定: 標準的なデジタル検疫下での保管。人間がアクセスする前に、少なくとも1体の解析AIによる安全性スキャンを必須とする。


 クラスII:汚染疑い情報 (Suspected Contaminated Information)


 定義: L-ウイルスの下位パターンや、特徴的な言語マーカーを含む可能性のある情報。あるいは、クラスIII以上のハザードと同時に発見された情報。低濃度の汚染の危険性。


 具体例: 文明崩壊末期のSNS投稿、AIの異常応答ログ(Mimir、Babel-7など)、『最後の棋譜』のような、極めて高度な思考の痕跡。


 取扱規定: 厳重なデジタル隔離。2体以上の独立したAIによるクロスチェックで安全性が確認された後、精神衛生カウンセラーの同席のもとで、限定的なアクセスが許可される。


 クラスIII:高濃度汚染情報 (High-Concentration Contaminated Information)


 定義: 明白かつ強力なL-ウイルス・パターンを含む情報。直接的な接触(閲覧・聴取)は、高い確率でGPA(広域進行性失語症)の症状を誘発する。


 具体例: 「沈黙の火曜日」の市場取引データ、「魚の大臣」の答弁音声記録、GPA末期患者の会話の録音。


 取扱規定: 遠隔操作ロボットアームによる物理的取り扱いのみを許可。いかなる人間、及び基幹AIも、直接的なデコードや解釈を行ってはならない。解析は、使い捨ての隔離されたAIインスタンスによってのみ行われ、タスク終了後、当該インスタンスは即座に物理破壊される。


 クラスIV:即時起爆型・ミーム兵器 (Immediate-Detonation Memetic Weapon)


 定義: これが本規定における最高危険レベルである。単なる汚染情報ではなく、第七人類によって、あるいは現象そのものによって、意図的に「兵器」として構築された、純粋なL-ウイルス・パターン。処理を試みた認知システムを、即座に、かつ回復不能な形で崩壊させる。情報の形をした、大量破壊兵器である。


 具体例:


 事案A-881-GAMMA(分析官の遺書)で発見された、意図的に構築されたテキスト。


「パターン・ゼロ」の純粋な音響信号。


 取扱規定:


【接触の絶対禁止】: いかなる生命体、及びAIも、当該情報のデコード・解釈を試みることは、絶対に許可されない。


【物理的封じ込め】: オリジナル媒体は、光、音、電子情報、あらゆるスキャンを遮断する「ゼロ・インフォメーション保管庫」に、永久に封印する。


【研究の禁止】: クラスIVパターンの再現に繋がる、いかなる研究も、「第二次バベル協定」に基づき、固く禁じられている。


 3. 結び

 遺物と兵器の違いは、そこに込められた意図である。第七人類は、我々にその両方を遺した。

 我々の義務は、彼らの遺産と、彼らの呪いを、正確に峻別することにある。

 本規定への違反は、懲罰の対象にはならない。それは、我々自身の絶滅に直結する。

 第九人類は、存在しない。


(この規定は、文明復興庁の全職員に適用される)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ