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プロジェクト・サイクロス 定例会議 議事録 #03(最終記録と推定)

 文書レベル: TOP SECRET // ORCON / NOFORN

 日付: 大沈黙の2週間前

 場所: 国防高等研究計画局(DARPA)第7カンファレンスルーム(遠隔参加者含む)

 件名: G.A.P.に関する…現状の…共有…


 出席者:


 議長: エヴァンス博士(DARPA)

 物理宇宙部門: アリス・ソーン博士(NASA/JPL)- リモート接続(音声のみ、著しく不安定)

 地球物理部門: タナカ・ケンジ博士(JAMSTEC)- [連絡途絶]

 情報科学部門: デヴィッド・チェン博士(MITメディアラボ)

 認知言語学部門: エレナ・ペトロヴァ博士

 オブザーバー: [編集済](国家安全保障局)


[議事録開始]


 議長(エヴァンス博士): …始める。始めるぞ。…議題は、…議題だ。現状…を…。

(重い沈黙。エヴァンス博士は額の汗を拭う。誰も発言しない)


 議長(エヴァンス博士): …ソーン博士。何か、何か報告は…。


 ソーン博士(音声のみ): …(激しいノイズ)…太陽は、静か…だと言って…(ノイズ)…観測できない…我々の…(ノイズに紛れて、規則的な、歌のような高周波音が混じる)…もう、意味…ない…


(ソーン博士との通信、断絶。スピーカーは、ただ「ザー…」という音を立てている)


 議長(エヴァンス博士): …チェン博士。君からは。


 チェン博士(MIT): (虚ろな目でスクリーンを見つめながら)ISP率(インターネット意味汚染率)は…もう、計測不能です。汚染されていないデータの方が、統計的例外になった。意味のある情報が、ノイズの海に浮かぶ、最後の島ですらない。もはや、塩の粒です。我々のモデルは、完全に崩壊した。…それだけです。


 議長(エヴァンス博士): (かすかに震える声で)…ペトロヴァ博士。君は…君は、正しかった。何か…何か、手は…あるのか。どんな、小さなことでも…。


(全員の視線が、ペトロヴァ博士に集まる)


(ペトロヴァ博士は、出席者一人ひとりの顔を、ゆっくりと見回す。その目は、深い憐れみと、完全な諦観を湛えている。やがて、彼女は、静かに、ゆっくりと、首を横に振った)


(彼女は、もはや何も語らない。語るべき言葉が、この世界にもう存在しないことを、誰よりも深く理解しているかのように)


 議長(エヴァンス博士): …そう、か。そうか…。我々は…我々…は……


(エヴァンス博士の言葉は、続かなかった。彼は深く俯き、ただ、肩を震わせ始める)


(以降、約30分間、誰も一言も発しなかった。ただ、部屋には、空調の音と、スピーカーから漏れ続ける、微かな、周期的なノイズだけが響いていた。記録は、ここで途絶している)

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