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国際神経科学会(SFN)年次総会 発表要旨

 セッションID: 305.01


 演題: 広域進行性失語症(GPA)におけるブローカ・ウェルニッケ野の機能的結合解除


 発表者: [編集済]博士、他(マックス・プランク神経科学研究所)


 日付: 大沈黙の1年9ヶ月前




 背景 (Background):


 近年、全世界で爆発的に症例が報告されている、新規の神経変性疾患、通称「広域進行性失語症(Global Progressive Aphasia / GPA)」について、その神経科学的メカニズムは未だ解明されていない。GPAは、脳の物理的な器質的損傷が見られないにもかかわらず、単語の想起困難から始まり、最終的には言語の生成・理解能力が完全に喪失する、進行性の疾患である。本研究は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用い、GPA患者の脳内で何が起きているかを可視化することを目的とする。




 方法 (Methods):


 GPAと診断された患者50名と、健常者50名の対照群に対し、文章の聴取、単語の黙読といった言語的刺激を与え、その際の脳活動をfMRIで計測。特に、言語理解を司る「ウェルニッケ野」と、言語生成を司る「ブローカ野」の間の機能的結合性に着目し、その活動パターンを比較分析した。




 結果 (Results):


 健常者対照群では、言語刺激に対し、ウェルニッケ野とブローカ野が、緊密に連携し、同期した活動パターン(一つの協調したネットワーク)を示すのが観察された。




 一方、GPA患者では、以下の異常な活動パターンが確認された。




 言語刺激の直後、まずウェルニッケ野(理解野)が、健常者の数倍から数十倍という、極度の過活動ハイパーアクティベーション状態に陥る。これはまるで、過大なノイズや情報量の多すぎる信号を、脳が必死に処理しようとしてショートしているかのようである。


 その直後、ウェルニッケ野とブローカ野を接続する神経経路(弓状束)上の血流が、劇的に低下。両領域間のシグナル伝達が、完全に「切断」される。


 結果として得られるfMRI画像は、衝撃的である。ウェルニッケ野が嵐のように激しく活動しているにもかかわらず、ブローカ野は、まるで指示が届かないかのように、ほぼ沈黙したままである。健常者の脳内で見られる、両領域を繋ぐ「光の橋」は、完全に消失している。


 


 結論 (Conclusion):


 我々のデータは、GPAが単なる機能低下ではなく、言語情報の入力そのものが、脳の安全装置(サーキットブレーカー)を作動させ、言語野のネットワークを強制的にシャットダウンさせていることを示唆している。




 これは、未知のプリオン病、あるいは神経系に特異的に感染するウイルスが、言語野間の接続を物理的・機能的に破壊している可能性を強く示唆するものである。


 この「話せば、聞けば、脳が壊れていく病」に対し、我々は早急な病原体の特定と、診断マーカー及び治療薬の開発を、最優先で進めなければならない。

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