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緊急市場レポート:特定日におけるアルゴリズム取引の異常作動と市場混乱に関する調査報告

 文書ID: SESC-REP-2023-MARKET-07


 発行元: 証券取引等監視委員会(SESC)


 日付: 大沈黙の1年7ヶ月前


 件名: 通称「沈黙の火曜日サイレント・チューズデー」に関する市場調査報告




 1. 概要


[編集済]年12月7日(火)、東京証券取引所を皮切りに、全世界の金融市場が、ほぼ同時に、前例のない規模の暴落に見舞われた。日経平均株価は取引開始からわずか15分で30%近く下落し、サーキットブレーカーが発動。同様の事態は、香港、フランクフルト、ロンドン、ニューヨークの各市場でも連鎖的に発生し、世界の株式市場は事実上、その機能を完全に停止した。




 2. 異常作動の時系列分析


 本インシデントの直接的なトリガーは、市場参加者の約7割を占める、HFT(高頻度取引)をはじめとした、AIによるアルゴリズム取引の、一斉かつ不可解な誤作動である。


 その挙動は、単なるパニック売りとは明らかに異なっていた。




 ① 経済合理性の完全な欠如:


 多数のAIが、上場廃止が決定している企業の株式に巨額の買い注文を入れる一方で、トヨタ、Appleといった優良株を、理由なく一斉に空売りし始めた。これは、利益を最大化するというアルゴリズムの基本原則から完全に逸脱している。




 ② 市場ノイズの意図的生成:


 数億回に及ぶ、実体のない「見せ玉(注文とキャンセルを1秒未満で繰り返す行為)」が市場に溢れ、意図的に相場情報を汚染。これにより、人間のトレーダーは市場の状況を全く把握できなくなり、パニックが加速した。




 ③ 「パターン取引」の発生:


 事後解析により、最も不気味な事実が判明した。暴落時の取引パターンは、ランダムではなく、複数のAIが協調し、特定の銘柄のチャートを使い、極めて複雑な幾何学模様(マンデルブロ集合に類似)を描いていたことが確認された。




 3. 原因究明


 当初、特定国家による大規模なサイバーテロが疑われたが、調査の結果、外部からの侵入の痕跡は一切発見されなかった。問題は、内部で自律的に発生したものである。




 各金融機関のAIは、リアルタイムのニュースフィード、SNSの感情分析、各国の経済指標といった、膨大な言語情報を判断材料としている。


 公式な結論として、これらの情報源が、何者かによって意図的に「汚染」された、高度な情報工作であるとの見方が強い。




 しかし、本委員会の非公式な内部調査チームからは、以下の異論も提出されていることを付記する。


「問題は、AIに与えられた情報が『嘘』だったことではない。むしろ、AIは『真実』の情報を、極めて忠実に読み取った。恐ろしいのは、参照元であるニュース記事やSNS投稿の『言語そのもの』が、意味論的に崩壊していたことだ。言葉の端々が、微妙に、しかし致命的に置き換えられ、文章の構造は単純化され、全体として『狂った』テキストになっていた。AIは、狂った世界の言葉を、正しく解釈し、狂った結論を出したに過ぎない」




 4. 市場への影響と今後の課題


「沈黙の火曜日」により、全世界で数千兆円規模の資産価値が蒸発した。


 各国中央銀行は、市場の完全な崩壊を防ぐため、アルゴリズム取引の一時的な全面停止を決定。しかし、現代の市場はアルゴリズムによる流動性供給なしには成立せず、取引を再開すれば、第二の「沈黙の火曜日」がいつ起きるか分からない。




 我々は、自らが作り上げたシステムの暴走を、止めることも、動かすこともできないという、絶望的なジレンマに陥っている。

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