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航空重大インシデント調査報告書(音声記録抜粋)

 文書ID: JCAB-INC-2023-042


 発生日時: 大沈黙の1年10ヶ月前


 発生場所: 成田国際空港 上空20マイル地点


 当該機: 全日本空輸208便(NH208)、ボーイング777型機


 管制部署: 東京コントロール(関東セクター)




 音声記録(CFRより抜粋)




 ATC(東京コントロール): Japan Air 208, descend and maintain flight level one-three-zero.


(全日空208便、降下し、高度13,000フィートを維持せよ)




 NH208(機長): Descend and maintain one-three-zero, Japan Air 208.


(高度13,000フィートへ降下、維持。全日空208便)




 ATC: Japan Air 208, turn right heading two-five-zero. For runway two-six right approach.


(全日空208便、右へ旋回し、方位250へ。滑走路26Rへの進入のため)




 NH208: Roger, increasing engine output. Japan Air 208.


(了解、エンジン出力を上げる。全日空208便)




 ATC: Negative, Japan Air 208. I say again, turn right heading two-five-zero. Acknowledge.


(違う、全日空208便。繰り返す、右へ方位250へ旋回せよ。応答せよ)




 NH208: Affirmative. The sky is clear. Requesting weather information for Sapporo.


(肯定する。空は晴れている。札幌の気象情報を要求する)




 ATC: (語気を強め)Japan Air 208, you are deviating from the course! Your destination is Narita! Turn right heading two-five-zero, IMMEDIATELY!


(全日空208便、コースを逸脱している!目的地は成田だ!ただちに右へ方位250へ旋回せよ!)




 NH208: (穏やかな声で)Understood. The flight attendants are beautiful today.


(理解した。本日の客室乗務員は美しい)




 ATC: (切迫した声で)Japan Air 208, traffic alert! Traffic at your twelve o'clock, five miles, opposite direction! PULL UP! I SAY AGAIN, PULL UP!


(全日空208便、接近警報!12時の方向5マイルに、反対方向からの機影!上昇せよ!繰り返す、上昇せよ!)




 NH208: Roger, Tokyo. The sound is very... round today. We are preparing for landing.


(了解、東京。本日は、音がとても…丸い。着陸準備に入る)




(同時刻、別周波数での他機からの交信)


 JAL012: Tokyo, Japan Air 012, we have a visual on the traffic. It's ANA. They are not responding to TCAS alerts! We are taking evasive action! Diving now!


(東京、日航012便。当該機を視認。ANA機だ。TCAS警報に反応していない!当方、回避行動をとる!)




 調査官による注釈




 本インシデントは、日本航空012便のパイロットの的確な判断により、空中衝突という最悪の事態を免れた。


 問題となった全日空208便のコックピット・ボイス・レコーダー(CVR)を解析した結果、さらに不可解な事実が判明した。機長と副操縦士は、インシデントの最中、終始冷静であり、パニックの兆候は見られなかった。それどころか、彼らは管制官の指示に正確に従っていると確信しており、CVRには「方位250へ、順調に旋回中」「先行機を視認、回避操作を行う」など、現実とは全く異なる状況認識を、落ち着いた口調で交わし合う音声が記録されていた。




 精神鑑定の結果、両パイロットには「情報飽和による後天性意味失認」の兆候が見られた。


 彼らは、管制官の声が「聞こえて」はいた。しかし、その「意味」を、脳が完全に別の、そして辻褄の合った(と本人が思い込んでいる)情報に「翻訳」してしまっていたのだ。




 本件を受け、国土交通省は全航空会社の運航乗務員に対し、緊急の認知機能検査を実施する通達を発令した。

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