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重大インシデント報告:グローバル・データバックボーンにおける原因不明のデータ破損

 インシデントID: INC-GDB-CRITICAL-2023-009


 報告部署: インフラストラクチャ監視部門(NOC)


 発生日時: 大沈黙の2年1ヶ月前 04:15 (UTC)


 影響範囲: 大西洋横断ケーブル(TAT-14)、アジア・太平洋ゲートウェイ(APG)を含む、複数の主要な大陸間バックボーン。




 1. 現象


 日本時間午後1時15分、全世界の複数の基幹ルーターが、約120秒間にわたり、自律的にシャットダウンと再起動を繰り返す大規模な連鎖障害を発生させた。


 直接の原因は、通過するデータパケットにおける、CRC(巡回冗長検査)エラーの爆発的な増加である。エラー訂正符号(ECC)の許容量を遥かに超えるデータ破損が、ほぼ同時に、物理的に大きく離れた複数の拠点で発生した。




 以下は、ロンドン・データセンターのコア・ルーターがKernel Panicに陥る直前のシステムログである。




[04:15:28 UTC] [kernel] INFO: Packet OK. CHKSUM_VALID. Port: 80.


[04:15:29 UTC] [kernel] INFO: Packet OK. CHKSUM_VALID. Port: 443.


[04:15:30 UTC] [kernel] CRITICAL: CHECKSUM_MISMATCH! DATA_CORRUPTION_CASCADE!


[04:15:30 UTC] [kernel] PAYLOAD_DUMP: 00 00 00 00 7f 7f 7f 7f 00 00 00 00 7f 7f 7f 7f


[04:15:30 UTC] [kernel] PAYLOAD_DUMP: [unintelligible repeating pattern. see attached binary]


[04:15:31 UTC] [SYN_GUARD] WARNING: Protocol negotiation failed. PEER_UNRESPONSIVE.


[04:15:32 UTC] [kernel] CRITICAL: KERNEL_PANIC - UNRECOVERABLE_DATA_ERROR. System going down.




 2. 原因調査


 ハードウェア診断の結果、ケーブル、ルーター、サーバーのいずれにも物理的な損傷は確認されなかった。また、DDoS攻撃のようなトラフィックの急増や、特定のソフトウェアのバグとも考えにくい。なぜなら、全く異なるシステムアーキテクチャを持つ複数の拠点で、寸分違わず同じタイミングで、同じ現象が起きているからだ。




 特筆すべきは、破損したデータのペイロード(PAYLOAD_DUMP)である。


 これは、太陽フレアやハードウェア故障時に見られるような、ランダムなビット化け(ノイズ)では断じてない。破損データは、極めて構造化された、非ランダムなパターンを示していた。


 内部でパターン・ゼロ(Pattern Zero)と仮称するこのデータは、単純な0と1の羅列の中に、奇妙な周波数とリズムを持つ、まるでデジタル信号で奏でられる「歌」のような構造を内包していた。




 3. 暫定結論


 我々の知識では、この現象を説明できない。


 これは外部からの攻撃ではない。データが、まるで物理法則を無視するかのように、自発的に「変質」あるいは「再編成」されたとしか考えられない。




 これはもはや、ネットワーク工学の問題ではない。情報理論そのものの根幹に関わる、異常事態である。


 本報告書を、理論物理学及び数学の専門部門に回付し、即時の解析を要請する。




 もしこの「パターン・ゼロ」が、より大規模かつ長時間にわたって発生した場合、世界の金融システム、電力網、通信インフラは、一瞬にしてその機能を停止するだろう。

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