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まえがき
本書は、第七人類文明が不可解な形でその活動を終焉させた事象について、後世への記録として編纂されたものである。我々はこれを「大沈黙」と呼称する。
戦争、疫病、天変地異。過去の人類が想像した「世界の終わり」のどれとも、その様相は異なっていた。物理的な破壊の痕跡はほとんどなく、まるでそこにいた人々が、一斉にスイッチを切られたかのように、ただ、いなくなった。
ここに収録されたのは、大沈黙に至るまでの数年間、世界各地で記録された断片的な報告の写しである。
これらは政府の機密文書、個人の日記、ソーシャルメディアの投稿、学術論文の草稿など、その出自も形態も様々だ。
我々編纂者は、これらの記録に一切の解釈を加えない。
客観的な事実の断片を提示することのみを目的とする。なぜ彼らが滅びたのか。
その問いは、この静かになった地球において、永遠に答えの出ない問いなのかもしれない。
読者諸賢が、これらの記録の行間に、第七人類が最後に見た風景のかけらでも見出すことができたなら、我々の目的は果たされたことになる。