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第二十話:紅玉の輝きと未来への誓い

第二十話:紅玉の輝きと未来への誓い

王宮本殿での戦いは、熾烈を極めた。ヴァルカン軍本隊は、圧倒的な数の力でアリアナに迫る。しかし、アリアナは、愛する者の漆黒の剣を手に、一人、立ち向かった。ゼノスの剣から放たれる紅玉色の光が、アリアナ自身の魔力と共鳴し、かつてないほどの、神聖とも言える力を生み出す。それは、ゼノスが最後に彼女に託した、希望と愛の、魂の光だった。


アリアナの剣技は、騎士であるゼノスには遠く及ばない。それは、彼女自身が一番よく知っていた。しかし、剣に宿るゼノスの魂、あるいは力の残滓が、彼女の動きを導くかのように、ヴァルカン兵を次々と薙ぎ払っていく。アリアナの魔力は、剣から放たれる光によって増幅され、広範囲の敵を、容赦なく吹き飛ばす。彼女の姿は、悲しみを乗り越え、愛する者の遺志を継いだ、恐ろしくも、そして痛ましいほど美しい戦乙女そのものだった。美貌は、決意と、そして喪失の痛みを湛えながら、神々しいほどの輝きを放っている。


「我が王国を…これ以上、汚させない…!ゼノスが…命を懸けて守った場所よ…!」


アリアナの叫び声が、王宮中に響き渡る。その声には、ゼノスへの深い愛と、王国を守るという、彼から託された、そして彼と共に果たすべき、強い意志が宿っている。ヴァルカン兵たちは、アリアナの想像を絶する力と気迫に、怯え始めた。彼らは、女王一人に、これほどまでに苦戦するとは思っていなかった。彼女の纏う魔力と、剣から放たれる光は、彼らに畏怖と恐怖心を同時に植え付けた。


戦いは、数時間にも及んだ。アリアナは、傷つき、疲弊しながらも、決して倒れなかった。彼女の全身は、新たな傷で覆われ、深紅の戦闘服は血と煤で、もはや元の色が分からないほど汚れている。魔力はほとんど底を尽きかけている。しかし、ゼノスの剣が、彼女を支え、守り、そして共に戦っていた。剣から放たれる紅玉色の光は、アリアナの生命力が尽きかけるたび、彼女に力を与えるかのように輝きを増した。それは、まるでゼノスが、彼女の傍で、彼女に力を与え続け、彼女を守り続けているかのようだった。彼の魂が、剣に宿り、彼女の全てである「光」を守っているのだ。


ヴァルカン軍は、予想外の抵抗に、混乱し始める。総大将を失ったこと、そして女王一人の尋常ならざる強さが、彼らの戦意を喪失させた。そして、王都の各地で奮戦していた王国の兵士たちも、王宮本殿から放たれる、あの紅玉色の光を見て、希望を見出した。それは、女王陛下がまだ戦っている証拠だ。そして、その傍らには、あの騎士団長が…と、彼らは信じた。彼らは、再び士気を高め、ヴァルカン軍に最後の反撃を開始した。


最終的に、ヴァルカン軍は、王都の各所での予想外の激しい抵抗と、王宮本殿でのアリアナの凄絶な奮戦、そして総大将を失ったことによる指揮系統の混乱により、壊滅的な損害を出し、敗走を開始した。王国は、多大な犠牲を払いながらも、辛うじて危機を脱したのだ。


王宮本殿は、戦いの跡が生々しく残っていた。瓦礫、血痕、そして倒れ伏したヴァルカン兵の死体。アリアナは、満身創痍になりながらも、ゼノスの剣を杖にして、そこに立っていた。彼女の全身は傷だらけで、深紅の戦闘服は血と煤で汚れている。魔力はほとんど残っていない。しかし、彼女の瞳には、勝利の光と、そして深い、深い悲しみが宿っていた。彼の剣から放たれる紅玉色の光は、以前よりもさらに微弱になっていたが、彼女の傍らで、静かに輝いている。まるで、力を使い果たしたかのように。


「ゼノス…勝ったわ…王国は…あなたの守りたかった王国は…救われたわよ…」


アリアナは、ゼノスの剣に向かって話しかけた。その声は、掠れており、涙声だ。剣から放たれる微弱な紅玉色の光が、彼女の頬を照らす。それは、彼の返事だろうか。


その時、王宮本殿の陰から、リリアナが駆けつけてきた。彼女の手には、まだ古文書の束が抱えられている。顔は煤と涙で汚れ、恐怖と安堵がないまぜになっている。


「お姉様!ご無事ですか!ああ、よかった…!本当に、よかった…!」


リリアナは、涙ながらにアリアナに駆け寄り、その無事な姿を見て、崩れ落ちそうになった。


「リリアナ…無事だったのね…古文書も…ありがとう…本当に、ありがとう…」


アリアナは、リリアナの無事を確認し、安堵の表情を見せた。希望の記録は、守られたのだ。リリアナは、ゼノスから託された役目を果たしたのだ。


リリアナは、アリアナの傍らにゼノスの姿がないことを改めて確認し、顔を曇らせた。そして、アリアナの手に握られているゼノスの剣を見て、悲しみに涙を流した。ゼノス様は、文字通り光となって消えてしまったのだ。


「ゼノス様は…禁断の魔法の呪いは…」


リリアナは、禁断の魔法の真実を知った今、ゼノスの消滅が、その呪いの代償であったことを理解していた。そして、彼の魂が、あの剣に宿っているのかもしれない、と感じていた。


アリアナは、リリアナに微笑んだ。その笑顔は、悲しみを含んでいるが、どこか穏やかだった。それは、全てが終わった安堵と、そして彼への深い愛情からくる、複雑な微笑みだった。


「禁断の魔法の呪い…それは、愛する者を守りたいという願いから生まれた力…でも、その代償は、あまりにも大きかった…」


アリアナは、剣から放たれる微弱な光を見つめた。


「この光は…ゼノスの…魂…なのね…私の…全て…」


アリアナは、静かに呟いた。それは、彼女にとって、否定できない真実だった。ゼノスは消えたのではない。彼の魂が、愛する者を守るための力となり、そして、彼の剣に宿り、彼女の傍らに居続けているのだ。


アリアナは、古文書をリリアナに返した。


「リリアナ。この記録は、希望よ。禁断の魔法の真実と、それをどう扱うべきかが記されている。王国を復興させ、二度とこのような悲劇が起きないようにするために、役立てて。そして…もし、この呪いを…ゼノスを…救う方法が、まだ残されているのなら…この記録の中に…」


アリアナは、リリアナに、微かな希望を託した。禁断の魔法の呪いを完全に解除する方法、あるいは彼の魂を取り戻す方法が、この記録の中に、まだ隠されているかもしれない。


「お姉様は…?」


「私は…この剣と共に…この王国を統治するわ。」


アリアナは、そう言って、ゼノスの剣を胸に抱きしめた。剣から放たれる微弱な紅玉色の光が、彼女の頬を優しく照らす。それは、彼の温もりだ。


数ヶ月後。王都は、徐々に復興が進んでいた。アリアナは、女王として、復興の指揮を執る。彼女のカリスマ性は健在で、民は再び希望を取り戻しつつあった。その姿は、以前にも増して、強く、そして優しくなっていた。リリアナは、古文書を元に、禁断の魔法に関する研究を進め、その力を正しく制御する方法を模索していた。そして、禁断の呪いについても、新たな情報を得ようとしていた。


アリアナの傍らには、常にゼノスの漆黒の剣があった。執務室の壁に飾ったり、公務の場に持ち込んだり、そして、夜、一人になった時、彼女は剣を手に、彼の思い出に浸った。剣から放たれる紅玉色の光は、以前よりさらに微弱になっていたが、消えることはなかった。それは、まるでゼノスの魂が、剣に宿り、アリアナの傍らに、彼女の全てとしてあり続けているかのようだった。


夜、アリアナは、ゼノスの剣を手に、王宮の庭園を一人で歩いた。満月が空に浮かんでいる。


「ねぇ、ゼノス。王都は、少しずつ元気になってきているわ。あなたの守りたかった王国は、滅びなかったわよ。私の民も、兵士たちも、みんな勇敢だったわ。」


アリアナは、剣に向かって話しかける。かつて、彼の寝顔に話しかけた時のように。


「あの時、あなたは『大好きです』って言ったわね。全く…最後の最後に、あんなこと言って…私のこと、困らせるのが好きだったの?」


アリアナは、少し拗ねたような口調で言った。その頬が、満月の光を浴びて、儚く赤らむ。美貌の女王の、切ない独り言。


「でも…嬉しかったわ。本当に。あなたの、あの石頭な顔で、もう一度、あの言葉を聞きたかったけど…仕方ないわね。」


アリアナは、剣をそっと抱きしめた。剣から、微弱な紅玉色の光が、彼女の体を優しく包み込む。それは、ゼノスが傍にいるという感覚。彼の温もり。


(ねぇ、ゼノス…あの時…私の言うように…って、何を言おうとしたの…?)


アリアナは、謁見の間での、彼の途切れた言葉を思い出す。「…あ…な…た…の…い…う…よ…う…に…」。その続きが、気になって仕方がなかった。それは、きっと、彼の最後の、彼らしい言葉だったのだろう。


「…もしかして…『あなたの言うように、大好きです、と伝えるのが私の使命です』…なんて、言おうとしたの?ふふっ…本当に、石頭なんだから…」


アリアナは、自分で彼の言葉を推測し、くすっと笑った。涙が、また伝う。悲しみと、そして、彼の真面目さ、石頭ぶりに向けられる、愛おしさがないまぜになった涙。


剣から放たれる微弱な光が、微かに強くなったような気がした。それは、彼の返事だろうか。それとも、彼女自身の想いが、剣に宿った彼の光を強めているのだろうか。


アリアナは、剣に語りかける。彼の、あの真面目すぎる反応を思い出しながら。彼の内心を想像しながら。それは、彼女にとって、彼と話しているのと同じことだった。彼の声は聞こえないが、彼の存在は、確かにここにある。彼の魂は、彼女の傍にいる。


「ねぇ、ゼノス…もし、生まれ変わったら…もし、主従じゃなかったら…あなたは、また私の剣になってくれる?それとも…別の形で…傍にいてくれる?」


アリアナは、剣に問いかけた。答えは返ってこない。しかし、剣から放たれる光が、微かに強くなったような気がした。そして、彼女を包む光が、一層温かくなったように感じた。それは、彼の「傍にいる」という意思表示だろうか。


禁断の魔法の呪いは、完全に消え去ることはなかった。しかし、それは、ゼノスという一人の騎士の命と引き換えに、王国を救う力となった。そして、その力は、彼の魂と共に、彼の剣に宿り、永遠にアリアナの傍らに留まることになったのだろう。


アリアナは、ゼノスの剣を手に、王国を統治し続けた。彼女の傍らには、常に彼の剣があった。それは、彼女の剣であり、彼女の希望であり、そして、彼女の愛する者の魂だった。時が経ち、彼女はさらに美しく、偉大な女王となった。しかし、彼女の瞳の奥には、常に、彼への切ない想いが宿っていた。


主従関係の恋は、物理的な形を失った。しかし、それは、アリアナの心の中で、そしてゼノスの剣に宿る光の中で、永遠のものとなった。二人の愛は、王国を救い、そして未来を照らす光となったのだ。


美貌の女王は、彼の剣と共に、強く、そして優しく、王国を導いていく。時折、一人になった時、彼女は彼の剣に語りかけるだろう。彼との、彼とだけの楽しいやり取りを。そして、彼が最後に告げた言葉を思い出しながら。そして、剣から放たれる微かな光に、彼の返事を感じるだろう。彼の魂は、彼女の傍で、彼女の「全て」として、永遠に生き続けるのだ。


紅玉の輝きは、永遠に、漆黒の剣の傍らにあった。そして、その光は、二人の切ない、しかし永遠の愛の証として、アストライア王国を照らし続けるのだろう。

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