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第十八話:共鳴する愛と禁断の共闘

第十八話:共鳴する愛と騎士の消滅

王宮の中庭に、ヴァルカン軍総大将が立ちはだかった。彼の背後には、ヴァルカン軍の本隊が控えている。しかし、彼の目の前には、二つの紅玉色の光が輝いていた。美貌の女王アリアナと、禁断の力を制御した騎士ゼノス。彼らの間に流れる絆の輝きは、ヴァルカン軍の数をも凌駕する存在感を放っていた。


「ふん、愚かなる紅玉の女王と、呪われし騎士め。貴様たちの抵抗もここまでだ。その力は、貴様の命と引き換えにしているのだろう?哀れなことだ。愛だ?この戦場で?愚かにもほどがあるわ!貴様たちの愛など、私の力の前に、無力だ!貴様は、騎士一人に、王国を、そして自身の命を捧げようというのか!」


ヴァルカンの総大将は、アリアナとゼノスを嘲笑った。その言葉は、二人の最も大切な絆を貶めるものだった。


アリアナの顔に、激しい怒りが浮かんだ。彼女自身を侮辱されることよりも、ゼノスとの絆を、愛を嘲笑されたことの方が、許せなかった。彼女の美貌が、怒りによって、鬼気迫る凄絶なものとなる。


「あなたの野望は、ここで終わりよ!王国は、あなたたちなんかに渡さない!そして…ゼノスは…私が必ず救うわ!どんな犠牲を払ってでも!あなたの、そのくだらない力で、私たちの絆を、愛を…嘲笑えると思うな!あなたは、ゼノスの爪先にも及ばないわ!私の…私の全てなのよ!」


アリアナは、総大将を睨みつけ、力強く宣言した。その声には、ゼノスを救うという強い決意と、彼への深い、そして誇り高き愛情が宿っている。美貌の女王の、最後の覚悟と、愛の宣言。それは、戦場に響き渡り、兵士たちに希望を与えた。そして、「ゼノスの爪先にも及ばない」という、彼女らしい辛辣な言葉で総大将を罵倒した。


「ふはは!救う?その呪いは、肉体と魂を同時に破壊する!治療法など存在しない!抵抗すれば、貴様も道連れになるだけだ!騎士一人に、女王の命を捧げるとは、やはり愚かだ!」


総大将は笑った。そして、禁断の魔法の呪いを解除する方法など存在しないと断言した。


「いいえ、方法はありますわ!そして、その代償も…しかし、その代償は、あなたのような卑しい人間には、決して理解できないでしょう!そして…ゼノスは…騎士一人なんかじゃない!彼は、私の…私の全てなのよ!」


アリアナは、秘密の書庫で知った禁断の魔法の真実、解除方法、そして代償について言及した。そして、ゼノスの存在の大きさを、改めて、そしてはっきりと総大将に突きつけた。彼女の言葉には、一切の迷いも躊躇もない。


「ほう?ならば見せてもらおうか!貴様たちの絆と愛が、どれほどのものか!そして、その代償とやらで、本当にこの呪いを打ち破れるのかをな!来い!紅玉の女王!呪われし騎士!」


総大将は、アリアナの言葉に興味を示し、挑戦的に叫んだ。そして、強大な魔力を放った。黒い雷のような魔力が、アリアナとゼノスに襲いかかる。それは、王国を滅亡させるに十分な力だった。


「ゼノス!」


アリアナは叫び、魔力で応戦しようとする。しかし、総大将の力は圧倒的だ。彼女の増幅された魔力をもってしても、全てを防ぎきることは難しい。


ゼノスは、アリアナを庇うように前に出た。彼の全身から、紅玉色の魔力がさらに強く放たれる。禁断の魔法の力を、全て解放しようとしているのだ。それは、彼の生命力を燃やして放たれる、最後の力だった。体内の呪いが、彼の肉体を破壊する速度を早めている。


「いけない、ゼノス!無理しないで!その力は…!あなたの命が…!」


アリアナは、ゼノスの体を案じ、叫んだ。彼の体が、紅玉色の光の中で、透き通っていくかのようだ。別れが、迫っている。そして、その別れは、彼が自ら選んだ道だ。ゼノスの顔色が、さらに薄くなる。


ゼノスは、アリアナの方を振り返り、微笑んだ。その微笑みは、穏やかで、そして悲しみを湛えている。それは、別れを予感させる微笑みだった。しかし、その瞳には、アリアナへの深い愛情と、そして、彼の最後の誓いが宿っている。彼は、アリアナの心配する顔、涙を見つめる。そして、彼の心を支えてくれた、アリアナとの、何気ない日常、からかうような言葉、まるで恋人のようなやり取り、そして、最後のキス…全てが脳裏を駆け巡る。


「陛下の…全てであるならば…陛下の…光を…お守りするのが…私の…最後の…役目です…」


ゼノスは、絞り出すように言った。彼の紅玉色の瞳が、アリアナを真っ直ぐに見つめる。彼の体は、もう限界だ。


「…ねぇ…ゼノス…最後に…私に石頭な顔…もう一度…見せてくれない?」


アリアナは、涙ながらに、彼に、彼女らしい最後の願いを言った。切なさと、そして彼への愛おしさが込められている。美貌の女王の、最期の願い。


ゼノスは、アリアナの言葉を聞き、微かに、しかし確かに微笑んだ。そして、その言葉に応えるかのように、アリアナの顔を、その美貌を、目に焼き付けるかのように見つめた。


「…あ…な…た…の…い…う…よ…う…に…」


(…あなたの…言うように…?)


アリアナは、ゼノスの言葉の意味が分からず、戸惑う。何?何が、私の言うように?


ゼノスは、最後の力を振り絞り、アリアナの顔を、その美しい美貌を、目に焼き付けるかのように見つめた。そして、微かに微笑んだ。彼の唇が、再び、力を込めて動いた。


「…だい…すき…です…陛下…」


その言葉は、静かに、しかし確かに、アリアナの耳に届いた。彼は、アリアナの命令を、今、この瞬間に、果たしたのだ。そして、それは、彼の心からの真実だった。彼の愛する女王へ、彼が捧げる、最後の、そして最も重い言葉。


「…ゼノス…!嫌だ…行かないで…!行かないで…っ…!!」


アリアナは、ゼノスの言葉を聞き、そして彼の体が紅玉色の光の中で、透明になっていくのを見て、絶叫した。涙が、止まらない。彼の体が、光と共に消えていこうとしている。彼女の全てが…光が…消えていこうとしている。


ゼノスは、アリアナの悲痛な叫びを聞きながら、体内の全ての力、禁断の魔法の呪いと化した力を、ヴァルカン総大将が放った黒い雷へとぶつけた。紅玉色の光と黒い雷が激しく衝突し、巨大な爆発が起こる。謁見の間での爆発とは比べ物にならないほど、強大な力だった。謁見の間全体が、光と衝撃に包まれる。ヴァルカン総大将の断末魔の叫びが響き渡る。


アリアナは、ゼノスの体が光の中に消えていくのを見ながら、彼の名を叫び続けた。彼の最後に告げた言葉を、心の中で反芻する。「大好きです、陛下」。それは、あまりにも切なく、そして、あまりにも遅すぎた告白だった。そして、彼の言う「あなたの言うように」とは、何だったのだろうか…?私の命令を果たす、ということ…?


光が収まった後、謁見の間は、さらに破壊されていた。ヴァルカン軍総大将の姿は消え失せ、彼の放った黒い雷の跡だけが残っていた。しかし、その場に、ゼノスの姿はなかった。ただ、彼の漆黒の剣が、彼が立っていた場所に、床に突き刺さっているだけだった。剣からは、まだ微かに紅玉色の光が放たれている。


「…ゼノス…?」


アリアナは、呆然として立ち尽くしていた。彼の体が、光と共に消えてしまったのか?禁断の魔法の呪いを、総大将を倒すために、自身の命と引き換えに使ってしまったのか?


王都の悲鳴は、まだ止まない。ヴァルカン軍の本隊は、まだ健在だ。王国最大の危機は、去っていない。


しかし、アリアナにとって、世界は、色を失っていた。彼女の光が…彼女の全てが…消えてしまったのだ。彼の最後に告げた「大好きです」という言葉だけが、心の中で、こだましていた。それは、あまりにも切なく、そして、あまりにも重い、愛の言葉だった。


破壊された謁見の間で、美貌の女王は、一人、立ち尽くしていた。彼女の頬には、乾いた涙の跡が残っている。そして、彼女の手は、ゼノスの剣の柄に、ゆっくりと、震えながら伸びた。剣は、まだ微かに温かい。まるで、彼の体温が残っているかのようだ。剣から放たれる光は、彼の魂の輝きだ。


この絶望的な状況の中で、アリアナは、王国を救い、そしてゼノスを救う(あるいは、彼の犠牲を無駄にしない)ために、立ち上がることができるのだろうか。禁断の魔法の呪いの真実、そして解除方法。それは、彼を救うための最後の希望となるのだろうか。それとも、彼の「全て」であるアリアナ自身が、禁断の魔法の呪いを打ち破るための鍵となるのだろうか。


物語は、最も過酷なクライマックスへと突入していた。愛と犠牲、そして運命を賭けた、最後の戦いが始まろうとしていた。そして、美貌の女王は、愛する騎士の剣を手に、彼の遺志を継ぎ、再び立ち上がる。彼の剣は、彼女の、そして王国の、希望の剣となる。

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