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第十四話:呪いの真実と古の記録

第十四話:呪いの真実と古の記録

王都は、血と炎、そして悲鳴に包まれていた。ヴァルカン軍は王都内を蹂誙し、王宮にも敵の手が迫っている。作戦室では、アリアナが鬼気迫る表情で指揮を執っていたが、戦況は悪化の一途を辿っていた。兵士たちの疲れは極限に達し、物資も底を突きかけている。美貌の女王の顔は、煤と汗で汚れているが、その紅玉の瞳の光だけは、決して失われていない。彼女の心臓は、悲鳴に呼応するかのように、痛ましく波打っていた。


「陛下!ヴァルカン軍が、王宮の中庭に!南門も破られそうです!このままでは、作戦室も危ないかと…!」


報告を聞いたアリアナは、歯を食いしばった。いよいよ、王宮の中枢が危ない。民の命が、兵士たちの命が、そして王国の命運が、風前の灯火だ。


(ゼノス…!)


アリアナの脳裏に、医療室のゼノスの顔が浮かぶ。彼は今、どうしているだろうか。医療室も、もう安全ではないはずだ。彼を、誰かに安全な場所へ移させた方が良いだろうか。しかし、誰に頼めば…信頼できる者は、もうほとんど残っていない。彼の傍に行って、その手を取りたい。


その時、作戦室の扉が開き、リリアナが血まみれの服で、恐怖と心配、そして微かな希望に顔を歪ませながら飛び込んできた。彼女の髪は乱れ、顔は煤と涙で汚れているが、その瞳には強い意志の光が宿っていた。


「リリアナ!?どうしてここに!無事だったのね!よかった…!」


アリアナは、リリアナの無事を確認し、心の底からホッとした。この混乱の中で、大切な身内が無事であったことに、どれほど救われたか。


「お姉様!危ないです!敵がここまで…!それに、ゼノス様が…!」


リリアナは、息切れしながら叫んだ。その声は震えているが、切迫している。


「ゼノスが?どうしたの!?無事なの!?答えて、リリアナ!早く!」


アリアナは、ゼノスの名を聞き、女王としての仮面が一瞬剥がれ落ちそうになる。緊張した面持ちで、リリアナに詰め寄った。ゼノスのこととなると、彼女は冷静さを保つのが難しくなる。その美貌が、心配の色に歪む。


「ゼノス様は…生きています!でも…体が光って…苦しそうで…ヴァルカン兵が医療室に来て…ゼノス様が…その光で…敵を…消し去りました…!」


リリアナは、医療室で見た、信じられない光景を、混乱しながら語った。ゼノスが、あの苦痛の中で、禁断の魔法の力を使って、自分を守ってくれたこと。


「光で…?敵を…消し去った…?禁断の魔法の力…!」


アリアナは、リリアナの話を聞き、ゼノスに呪いがあることを知った。そしてその宿った力が、制御不能な呪いだけでなく、彼の強い意志、そして彼女や大切な者を守るという強い思いによって、発動したことを知る。そして、彼が、その力を使って、リリアナを守ったことを悟った。


(ゼノス…あなたという人は…!こんな時まで…私の大切な者を守って…そして、その呪いの力は、あなたの命を蝕むというのに…!あなたは、本当に…馬鹿で、勇敢で、そして…私の…っ…!)


アリアナの胸が熱くなり、締め付けられる。彼は、こんな状態でも、常に自分のことよりも、他人を、そして大切な者を守ることを優先するのだ。その献身的な姿に、彼女の愛おしさが募る。しかし、同時に、彼の命が危険に晒されているという事実に、恐怖を感じる。


「リリアナ、よく来てくれたわ。本当にありがとう。でも、危険な場所へ…安全な場所へ逃げなさい!私と共にいては、あなたまで…!」


アリアナは、リリアナの手を握り、彼女を安全な場所へ行かせようとする。彼女の美貌が、心からの心配を映し出す。


「いいえ!お姉様!逃げません!ゼノス様が…私に、お姉様を守ってほしいって…光を、お守りしてほしいって…!」


リリアナは、ゼノスから託された言葉を、まっすぐな、涙に濡れた瞳で伝えた。その言葉は、ゼノスの強い意志の表れだった。そして、リリアナ自身も、愛する従姉を守りたいという強い思いを抱いていた。


アリアナは、リリアナの言葉を聞き、目を見開いた。ゼノスが、自分を「光」だと…そして、その光を守ってほしいと…それは、幼い頃、彼が自分を見て言った言葉と同じだ。「陛下は…私の、光でございますゆえ。」あの時、彼にとっての光は、希望という意味だった。しかし、今…?彼は、自分の命と引き換えに手に入れた禁断の力を、自分の「光」であるアリアナを守るために使ったのだ。


(私の…光…?ゼノスにとって、私は…まだ…光…なの…?呪われた力と引き換えに、私の光を守ると…?この石頭…!)


アリアナの心に、ゼノスの言葉が深く響く。そして、ある可能性に思い至った。禁断の魔法の呪いは、光の力によって制御される、という古文書の記述。辺境の地下で、アリアナの魔力(紅玉色の光)が禁断の魔法の魔力と共鳴し、ゼノスに力を宿らせたこと。そして、その力が、謁見の間の魔力抑止の仕掛けを破壊したこと。そして、今、彼の体から放たれる光…


(禁断の魔法の呪いは…光の力で…制御される…そして…ゼノスは…私の光を…宿した…?もしかしたら…彼の中に宿った「私の光」が…呪いを制御する鍵に…?あるいは、あの時、彼にキスをしたこと…私の感情が…彼の中の光を強めた…?)


アリアナは、閃きにも似た直感を得た。もしかしたら、ゼノスに宿った禁断の魔法の呪いは、彼の中に宿った「アリアナの光」、つまりアリアナ自身の魔力や、彼女との強い絆、そして彼女からの愛情によって、制御できるのではないか?あるいは、解除するための鍵になるのではないか?そして、その鍵は、王宮の奥にある、秘密の書庫に隠されている禁断の魔法に関する古の記録にあるかもしれない。


「リリアナ…よく聞いて。ゼノスを救う方法が…あるかもしれない。禁断の魔法の呪いは、光の力で制御できる…その光とは…私の魔力…そして…あなたも、私の光の一部よ…」


アリアナは、早口で言った。言葉を選んでいる暇はない。リリアナは、アリアナの言葉に戸惑う。禁断の魔法、呪い、光…彼女には理解できない言葉だ。しかし、アリアナの必死な表情と、その瞳に宿る希望の光を見て、それがゼノス様を救う道だと理解する。


「お姉様の…魔力…私の光…?」


「まだ分からない…でも、王宮の奥にある、秘密の書庫に、何か手がかりがあるはずよ。禁断の魔法に関する、古の記録が…あの辺境の地下で見た紋様も、そこに関係しているはず…」


アリアナは、辺境の地下で見た、禁断の魔法に関する紋様と、王宮の秘密の書庫で発見した古文書を結びつけた。禁断の魔法の呪いと、それを解除する方法に関する秘密が、そこに隠されているかもしれない。


「でも、お姉様!敵が王宮内を…作戦室も危ないんでしょう!?書庫は、もっと奥…今、そこが安全かどうか…それに、お姉様の魔力も、まだ回復していないんじゃ…」


リリアナが心配そうに言った。彼女の目は、アリアナの顔色や、微弱な魔力の輝きを見抜いていた。


「行くしかないわ。ゼノスを救うためには…この王国を救うためには…その古文書に、何か希望が隠されているかもしれない…それに…」


アリアナは、そこで言葉を区切った。そして、リリアナの手を強く握った。


「…あの石頭の、あの愛おしい顔を…もう二度と見れなくなるなんて…嫌だもの。」


アリアナは、真剣な表情で、少しだけからかうような言葉を挟んだ。それは、彼女にとって、ゼノスへの深い愛情を示す、最大限の、そして最も素直な表現だった。美貌の女王が、側近の騎士の顔を「愛おしい」と呼び、それが見れなくなるのが嫌だとまで言う。そのギャップは、リリアナの心に深く響いた。


リリアナは、アリアナの言葉の裏にある愛情と、彼女の人間的な弱さを見て、決意を固めた。


「分かりました!お姉様!私も、お供します!ゼノス様から、お姉様を守るように言われました!私も、役に立ちたいんです!あの方を救うために!」


リリアナは、恐怖を乗り越え、アリアナに言った。彼女は、ゼノスから託された言葉を果たすため、そして愛する従姉を守るために、アリアナと共に危険な場所へ行くことを選んだ。彼女の瞳には、強い意志が宿っている。そして、ゼノスを「あの石頭」と呼ぶアリアナの言葉を、少しだけ羨ましいと思った。


「…ありがとう、リリアナ。本当に、ありがとう。」


アリアナは、リリアナの言葉に、心から感謝した。この状況で、自分と共に危険を冒してくれる者がいる。しかも、ゼノスに託された願いを胸に。それは、彼女にとって、どれほど心強いことか。


作戦室の外で、戦闘の音が、さらに近づいてくる。怒号と剣戟の音。時間はない。


「行くわよ、リリアナ。秘密の書庫へ。…あの石頭を、必ず救い出すわ。」


アリアナは、そう言って、作戦室を出た。王都の悲鳴が響き渡る中、美貌の女王と、勇敢な従妹は、病床の騎士を救うため、そして王国を救うための、最後の希望を求めて、ヴァルカン兵や裏切り者たちが跋扈する王宮の中を、進んでいった。


王宮内の裏切り者たちの残党や、侵入したヴァルカン兵が、二人の前に立ちはだかるだろう。アリアナの魔力は完全ではない。しかし、ゼノスを救うという強い意志と、リリアナの存在が、彼女たちを突き動かす。


この危険な旅の中で、禁断の魔法の真実、そしてゼノスに宿った呪いの秘密が明らかになる。そして、それは、アリアナとゼノスの主従関係の恋に、どのような影響を与えるのだろうか。彼らの絆は、この呪いを打ち破ることができるのだろうか。そして、リリアナは、この状況で、どのような成長を遂げ、二人の関係にどう関わっていくのだろうか。


物語は、新たな局面を迎えていた。希望への光は微かだが、確かに見えたのだ。そして、それは、愛する人を救うための、切なくも勇ましい戦いの始まりだった。

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