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『世界の覇者』になれと、神に呪われた僕らはーーって、タンマ!異世界征服してるだけなのに仲間がクセTUEEEEすぎて世界の方がギブアップしてるんですケド!? のシリィイイイズううう!!!!

『世界の覇者』になれと、神に呪われた僕らはーーって、タンマ!異世界征服してるだけなのに仲間がクセTUEEEEすぎて世界の方がギブアップしてるんですケド!? ~しがなき覇者が、旅に出るまでの話~【後編】

作者: ルアン

ご覧いただきありがとうございます!

すみません、3篇に分けました。。

前半 https://ncode.syosetu.com/n9277kk/

中編 https://ncode.syosetu.com/n9381kk/

ですっっ!!

もしくは、上のシリーズ一覧から飛んでくださいナ!

ショーン=ほぼ三人称なので!よろしくです!

****

SIDEシルア


星はきらめき、それに呼応するかのように空はより暗さを増していく夜――


僕は眠ることができずにいた。

ぼおっと天井を見つめていると不意に、横からリュドエールルの寝言が聞こえる。


「ケビィンド……ギャ!?」


エミレに追われている夢でも見ているのだろうか。


――エミレ。


明るくて元気で飄々とした太陽みたいな少女。でも、どこか世界を達観している不思議な少女。

あの後、クローブについて聞いても、ただわからないと答えるだけだったし……


「エミレ、君は一体誰なんだ?」


孤独が夜の空気に溶け込んでいく。


――でも、きっと、そう問いかけても彼女は笑って「しがなき隠居中の覇者だよ」とさらりと流してしまうのだろう。

たとえ、いくら重く、残酷なものを背負っていようと。


だからこそ僕は……


エミレを守りたいと思わせたあの不思議な『感情』へと思いをはせる。


きっとこの気持ちはまぎれもない本物だ。


けれど、この感情の名前は、夜の星に託して……僕は静かに目を閉じた。



次の日。


焼けたバターと生地の甘い匂いが漂い、僕は頃間だとパンケーキをひっくり返す。

すると、その匂いにつられたエミレは、のそのそと現れる。


「おはよお、シルシル」


「おはよう、エミレ。朝から変なあだ名付けないで。」


「つれないなぁ、シルシル~。

 こう、なんというか、きゅるるんみたいな要素を感じないのかね?」


「まったくもって感じないね」


むうとふくれっ面をエミレはしながらも、ホットケーキをみてすぐさま機嫌を直す。

いつも通りのエミレ……それが、何よりもうれしくて、安心した。


「あ、そうだ!今日は町に行かない?買い出しついでにさ」


「町?」


「そう、エピネスの町!はじめてのお出かけってやつよ」


「……行ってみたい」


「よし、そうと決まれば町へ行くための準備体操!!ほら、いくよ!!」


「まずは朝食を食べてからだ、エミレ。」


「ほーい」


そんなやり取りをしながら、僕らはエピネスの町へ行くことになった。



****

SIDEシルア


エピネスの町はエミレの小屋から歩いて半刻ほどにある場所らしく、エミレと話しながら道中を進める。


「シルア、左目、カラーコンタクトしてるから違和感あると思うけど大丈夫?」


「うん、可能性は低いとしても、呪印(シジル)持ちって気づかれないためだし、仕方ないよ。」


「あ、あとキラッッぴこーんZ。あんまり町では、話さない!そして動かないこと!エピネスの町の人、さすがに驚いちゃうからさ。」


「ケィン……」


リュドエールルも初めてのお出かけを楽しみたかったようだが、エミレの指摘は珍しく的を得ていたので、残念ながら、僕の背中でステイだ。

リュドエールルのあまりの落ち込みように、エミレは若干申し訳なさそうな顔をしながらも、町の説明を続ける。


どうやら、エピネスの町はドウア国の果てにある、こじんまりとした集落ながらも、人とモノが行きかう活気あふれる町だそうだ。

町の話をするエミレはどこか誇らしげで、目をきらきらとさせていた。


そんな話をしているうちに、僕たちは町につく。


「あ、そうそう。

 町に入ったときに、町人たちによる、私が本物かどうか見極める無言タイム?っていう儀式があると思うんだけど……あれ。

 ――今日はない?」


不思議そうに首をかしげながらも、エミレはそのまま足を進める。

僕も彼女の背中についていき、町の中へと入る。


確かにそこはにぎやかな町が広がっていた。

しかし、壊れた道路、つぶれた家――この間のドラゴン襲撃事件の爪痕が町には色濃く残っていた。


だが、それ以上に目につくのは……


「パンひとつちょうだい」


「あっ、ああ、はい、どうぞ。」


町の人たちの様子がおかしい。

彼らは、エミレをみると目をそらしたり、距離を取ったりと明らかに怯えている。

だがそんな態度とは裏腹に、好奇心が抑えられないのか、こちらをうかがってくる。


今日初めてこの場所に来た僕でもわかるような異様な光景。


エミレは、何ひとつ気にしないような態度で、楽し気にあれこれ物を買っているように見えたが――


「……やっぱり、こうなるんだ。」


小さな声だったが、僕の耳には確実に届いた。

思わず僕は彼女を見つめる。


エミレの横顔は鋭く、何かを見定め、決意するかのように町を観ていた。

が、次の瞬間には、いつも通りの笑顔に戻っていて、僕は踏み込むことができなかった。


そんな中、


「わっ!」


ひとりの幼い少年が走ってきて、不意にエミレとぶつかる。


エミレが声をかけようとした刹那――


少年は顔を青ざめさせ、膝をついて土下座をする。

その小さな体は震え、まるで命乞いをするかのようだった。


「ごっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。僕にできることなら何でもしますから、だからどうか……」


「……っと、気にすることはないよ?落ち着いて。怪我してない?」


あまりの剣幕にエミレは呆気にとられつつも、すぐさまフォローをしようとするが――


「僕の家にドラゴンは呼ばないでください!」


その発言が、場を凍らせる。


思わず、僕は耳を疑う。


……は?


ドラゴンを……呼ばないでください? 

冗談じゃない。こいつ、何を言ってるんだ。


……まさか、エミレがドラゴンを呼んだって勘違いされている!?


いやいやいや、そんなのありえない。


ドラゴンが出た時、エミレと僕は小屋にいたし、

そのあと、エミレがドラゴンを倒したし、

何より、彼女はエピネスの町をあんなに楽しそうに話していたのに?


けれど、僕が感じていた『違和感』とそこから、浮かび上がる最悪の事態の点がつながる。


いつもあるという無言タイムがなかったこと、

エミレ対して、町の人たちがぎこちなく、どこか遠ざけるようにしていたこと、

そして、エミレが少し悲しそうにしていたこと。


それはなぜか――


そう、エミレがドラゴンを町におびき寄せたと疑われているから。


認めたくない。そんなの、理不尽すぎる。気づきたくなんてなかった。


騒ぎが大きくなる前に僕はエミレと町からいったん離れようと決意する。


だが、そんな僕の気持ちとは裏腹に騒ぎを聞きつけた町の人々がつぎつぎと集まる。


そして、


「おい、なんてことしてくれてるんだ!」


「また、()()()に目を付けられたら、今度は町が一瞬にして破壊されるかもしれないんだぞ!」


集団の内の誰かが、少年の母親らしき女性に怒鳴る。


「そうだそうだ!」と彼女を責める声がだんだんと強くなっていく。

中には、彼らを止める声もあったが、それは遥かに虚しく――届かない。


その勢いに、彼女は、へたりとしゃがみ込み、顔を伏せて、わなわなと震え始める。


しかし、しばらくすると、女性はゆっくりと顔をあげ、少年の元へと駆けていき、抱き寄せる。

その表情は怒りと憎悪、そしてなにより母親としての責任が感じられた。


「……っ、もとはと言えば……この子じゃないの。

 ドラゴンをおびき寄せて町を、壊そうとしていたんでしょう……?」


すがるように、ゆっくりと、でも確実にその声は発せられる。

落ち葉が擦れて、そこから炎が出るように。


人々の視線が一気にエミレへと集まる。


空気が鉛のように重くのしかかる。うまく呼吸ができない。


彼女は、何も言わず、ただまっすぐと少年と彼をかばう母親を見据えていた。

だが、彼女はだんだんと口元に狂気的な笑みを浮かべ始め――


「大正解だよ、ご婦人。」


さらりと、冗談を言うかのように吐く。でも、その声は何よりも重く、残酷だった。


「そう、私がこの町にドラゴンをおびき寄せたんだ。――だって、憎かったんだもん、君たちが。」


ただ、そこに広がるのは、一面の沈黙。

まるで、町全体が、海の中に沈められたかのように、ひびの入った薄い氷の膜が張られているかのように、僕たちは動くことができなかった。


「やっぱり……噂はほんとだったんだ」


ぽつりと放たれた呟きが、石の波紋のように広がり……


「っざけるんじゃねぇよ」

「俺たちが一緒に過ごした日々も茶番だったっていうのかよ!?」

「どうせ、今日だって、その連れでも使って、町で騒ぎを起こすつもりだったんでしょう?」

「なんで、信じていたのに……」

「どうせ連れのガキでも使って、今日もまた何かするつもりだったんだろ」


怒り、憎しみ、悲しみ、困惑――そういった、感情が無秩序に、氾濫した川のようにあふれ出す。


そして、それはただ真っ直ぐと、エミレへ向かう。


そのどれもが、理不尽な産物に過ぎないのに、己の心に流されるがまま、激しくうねる。


だが、彼女はそのどれもを受け入れ、肯定し、認める。

当然だと言わんばかりに。優し気な笑顔を浮かべたまま。


そんな光景が、僕には到底耐え切れなかった。


なぜ、エミレが、噂を肯定して、町の人々の罵詈雑言の的になるのかわからなかった。


ただ、許せなかった。明らかに嘘とわかる内容を、本人が証拠もなく肯定したその返事ひとつで、ここまで責めることのできてしまう彼らが。


気付けば、僕の手は、リュドエールルを握っていた。

ただ、怒りのままに、感情が赴くままに。

……そうだ、殺せばいいんだ。


このまま、全員を――殺そう。

そうすれば、すべて解決する。

エミレに罵詈雑言を吐く奴らの顔も声も金輪際出くわすこともなくなれば、また平和になるから、大丈夫。


そうしたら、エミレも傷つかないで済む。

彼女が、今受けている苦痛を帳消しにすることができる。


僕は剣を引き抜こうとした。

僕にはこの手を止めるほどの理性などもうない。


――が、突如、僕の身体は金縛りにあったかのように動かなくなる。


身体はまったく動かなくて、脳が無駄に働いて、それがまた惨めだった。


原因はすぐに分かった――リュドエールルだ。


なんで、止めるんだよ。お前だって、わかるだろ、僕の気持ち。

エミレはなんにもやってないのに、あいつらになんで責められないといけないんだよ。


僕は必死になって、リュドエールルを説得しようとする。

けれども、剣も身体も梃でも動かない。


その代わりに――


「キュビィン」


僕の頭に直接リュドエールルの澄んだ、金属音が響き渡る。

まるで、何かを伝えるかのように。


瞬間、僕の視線は導かれるように、ある一点に吸い寄せられる。


……屋根の上に、それはいた。


――クローブだ。


あいつは、思い通りとでも言わん様子で、屋根の上にひっそりと立っていた。

そして、そのフードの奥に眠る視線はただ一点――エミレに注がれている。


僕は、やっと気づいた。エミレが悪者になろうとしている『理由』に。

……僕らは嵌められたのだ、クローブに。


クローブの目的は、おそらく、エミレ――彼でいう巫女様に、誰も関わらせないこと。

そのために、今回彼は、()()()()()()を立てたのだ。


ひとつめは僕の暗殺計画。だが、これは僕が呪印(シジル)に覚醒したことにより、阻止された。


そして、ふたつめの作戦。

それは――町人によって、エミレを町から追放させること。

そうすれば、彼女はより孤独を極めるだろう。


町人たちは、そのためだけに、クローブの作戦に利用されただけの駒だったのだ。

ただ、噂に、目の前の感情に、流されているだけの操り人形。


だけれど、クローブにとっては、町人たちは、確実に邪魔な存在。

もし、エミレが抵抗して、この策にはまっていなかったら、

――被害はより、深刻なものになっていたかもしれない。


きっと噂で済まされなかっただろう。

場合によっては、村人を大量虐殺することだってあり得る。


町ひとつ崩壊させてまで、巫女様だからと、エミレを()()の存在へともたらしめる。

クローブは、そのくらい平然とやってのけるだろう。

実際、あいつはそのために僕を殺そうとしたのだ。


だからこそ、エミレは……悪者を演じているんだ。

町を守るために。

無関係な人は、誰も巻き込まないように。

村を出る最後のその時まで、覇者(ヒーロー)であり続けるために。


それを理解したとき、改めて自分の愚かさを痛感させられる。


……僕は、今、この手でエミレの想いを踏みにじろうとしていたのだ。

リュドエールルがいなければ、今頃どうなっていたことか――


「……守るどころか、傷つけてたなエミレを」


そのつぶやきは、すぐに町人たちの声によってかき消され、僕の思考は現実へと引き戻される。

今は、そんな自分を責めている暇はないのだ。


何よりも確実に、エミレを守るために、排除しなければいけないものがある。


「クローブ、お前だけは、なにがあろうと許さねぇ」


その声はリュドエールルに、そして僕の心の芯に、どこまでも強く鳴り響いた。



でも……今はその時じゃない。

悔しいが、ここは村から出ないと、エミレの思惑通りに事が進まない。

無傷で終わらせよう、エミレが悔いなく、このエピネスの町を去れるように。


その思いが呼応するかのように――


「でていけ、お前らなんていたら困ることばっかりだ。」

「そうだ、きえろ!二度と姿をみせるな!」

「私には子供がいるの……この子たちを傷けるならでていって!」


町の人たちは、僕たちに出て行けと、叫び始める。


「はいはい、わかってますとも。あーあ、次はもっとうまくやんないとな~

 ま、なにはともあれ、もう君たちに用はないから。」


エミレは飄々と、ふてくされたような物言いをする。


だが、最後のひとことを発する前に――彼女はなにかを噛みしめるかのように、一拍空ける。


そして……


「さようなら」


その声は、一見、何かをあきらめたように聞こえた。

だが、同時に、やり切ったという達成感に満ち溢れていた。

まるで、すべてを終えた者のような、そんな不思議な重みを孕んでいた。


そんなエミレの様子を多少なりとも感じ取ったかのように、町の空気は静まり返る。

彼らだって、心のどこかではわかっていたのかもしれない。


――けれども、もうここまで来てしまったら、引き返せない。


「……ふざけんな、ただで済むなんて思ってないよな!」


静寂を引き裂くような(怒号)が放たれる。


「そうよ、怪我のひとつでも負わせてやらないと気が済まないわ!」

「軽々とでていきやがって、虫が良すぎるだろ」

「もう二度とこの村に近づくな」


町の人々の怒りは、彼らを群衆から暴徒へと変えていく。

石が飛び、食べ物が飛び、暴言が飛び……


エミレは、一切振り向かなかった。


たとえ、小石が当たって、血を流そうと、

食べ物が当たって、服が汚れようと、

いくらひどい言葉を浴びせられようと。


「そう、それが『正しい』。」


彼女は、ただ、僕にだけ、聞こえるようにひとこと放つだけだった。


――未だに、この言葉が、この時の彼女の姿が、僕は忘れられない。



****


「……シルア、君はいいの?

 村ひとつ丸ごと、破壊しようとした、殺人未遂犯と一緒に居て?」


村をでて、森の奥に入ったころ、エミレは、振り返って僕に尋ねる。

その言葉は、軽いのに、どこかすがるようで――無意識に、僕は、彼女を引き寄せたくなった。


「ばか。たとえ、エミレが殺人犯でも、なんでも、僕はついてくよ。

 ――だって、目指すんでしょ?世界の覇者。」


抱き寄せる代わりに放った言葉は、ぶっきらぼうになってしまったけれど

……僕は、手を差し出す。


すると、エミレは、目を見開いて、そして、向日葵のように微笑む。

だが、その笑顔にほんの少しの陰りがにじむ。


だから。


――こんどは僕から。


触れそうで触れない距離にある彼女の手を引っ張るように取って、強く握りしめる。

覇者になるんだって、強引に僕の手を握ってきたあの時のエミレのように。


「あったりまえよ!」


彼女の指にしだいに力が入る。

これは、きっと命がけの約束だと――彼女の体温が、そっと僕に伝える。


「そうと決まれば……ほら、シルア急ぐよ!!」


そういった瞬間、エミレは僕の手を引き、そのまま勢いよく駆けだす。

僕の手にかかるその力は、なによりも、暖かくて、もっと感じていたいもの。


「えっ、ちょ、エミレどこにいくの!?」

「決まってるでしょ!」


彼女の笑い声が、樹木の間から漏れる。


息が途切れそうで、途切れず、どこまでも僕の心は軽やかに踊る。

まるで、その先の言葉を待っているかのように。


「行くよ――世界の覇者になる旅へ」


****


SIDEショーン


小屋に帰ると、扉の前にはひとつ、大きな袋が置かれていた。


「ん、あれなんだろ?」


先に気がついたのはエミレ。

彼女は好奇心のままにその袋に駆け寄り、中身を開ける。


その中には、年季の入った地図と、埃をかぶった保存食と、

そして、ぶっきらぼうに書かれた一枚の手紙があった。


エミレは、おもむろに、手紙を手に取ると、何も言わずに読み始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ばかエミレへ。


どうせお前は途中で手紙を破くだろうから、最初に言っておく。

読むのなら、最後まで読め。


袋の中には、見てわかるだろうが、保存食と地図を入れておいた。

地図は年季ものだが、精密に書かれている。どこを目指してるか知らないけど、役には立つだろ。

保存食は、店の奥から取り出したやつだから、埃がかぶっていても、不味くても、文句を言うな。


……たく、最後まで町のためにって、正義の味方ぶりやがって。

あたしの目を誤魔化せたとでも思ったのかい?

まったく、ガキだね。


でも、おかげで清々したよ。

……静かすぎるくらいにね。


お前さんの事情は、まったくと言っていいほど知らないけど、

あの子のことは頼んだよ。


そして、何より、死ぬんじゃないよ。

ちゃんと、生きて、地図返しに来なさい。

あと、保存食の件は……高級料理の奢りで、許してやる。


追伸。

次帰ってくるときは、正座してドアの前で待ってな。

話はそれからだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


エミレはひと通り、手紙を読み終えると、ふっと鼻で笑って、短く、


「……誰が、正座なんてするか。ばーか。」


と返した。


そうして、くしゃりと手紙をたたむ。


「エミレ、それ誰からの?」


後からついてきたシルアが尋ねる。

すると、エミレは、くるりとシルアの方を向きなおし、肩をすくめる。


「うーん、どこまでも素直じゃなくて、優しいおばさんから。

 ……あたしの、恩人みたいなものよ。」


さらっと放つその声は、その軽さに反して、どこか遠くを懐かしむようだった。


「昔――ちょっくらへまして、血だらけであの町にたどり着いたんだけどね。

 その時に、真っ先に介抱してくれたのがあのおばさんだったんだよ。」


「それって……」


「でも、あの人、それはまぁ、豪快に町のど真ん中で治療するもんだからさ。

 おかげで八芒星オクターヴ・アンシエンヌもしっかりと見られちゃって。」


エミレは、苦笑交じりに続ける。


「そしたら、案の定、町の人たちに、怖がられて――怪我が治ると否や、すぐに、奥の森に飛ばされたんだよね。」


「それってひどくない?」


「……いいや。むしろ、突然、血まみれで町に現れた不審者を、助けて、村にいれてくれた。

 それだけでも、十分すぎるくらい優しいのに、あの人たち、打ち解けたら、すごくよくしてくれて。」


そこまでつぶやくとエミレは、再び手紙に視線を移す。


「……はは、あたし、結果的に、完璧な悪役になんてなれなかったな。」


照れくさそうに吐いたその言葉は風に乗って飛んでいく。

拭いきれない思いを、ひと時だけ、癒すように。


風は頬をなで、髪を揺らす。

エミレはその場に立ち尽くし、青空を見上げた。


……それから、小さく息を吐く。


彼女は、その風を受けきると勢いよく、地図を広げた。


「さ、シルア。」


エミレが手招きして、シルアに地図を見るように促す。


「私たちがまず、どこに行くべきなのかわかる?」


「まったく」


「だよね」


「え、もしかしてだけど……」


「もちろん、私もサッパリ!」


エミレは、そういうと握りこぶしを頭に当てて、てへぺろとポーズをとる。

やっぱりと、黙りこくったシルアの代わりに、


「ケン……」


こいつアホだとリュドエールル(アニキ)は、ため息をつく。

そんな2人をとりまく、詰んだという空気を取り払うため、エミレはパンパンと手を鳴らす。


「まぁまぁ、でも、やることははっきりしてるでしょ!

 簡単!世界の覇者になればいいのよ、この国で!」


彼女はわざと声を張り上げて、高らかに宣う。


「その情報ってどこから仕入れたの?」


シルアがふと思いついたように尋ねると、エミレは待ってました!と立ち上がる。

……いつも通りの、悪寒。


「私が、呪印(シジル)の呪いとそれを解く方法を知った場所。

 それはね……教会の禁書庫だよ。」


「禁書庫……それってあきらかにヤバやつじゃ」


「あ、うん。ヤバいよ。

 教会の大司祭レベルの人間じゃないと立ち入れないし、もし許可なく立ち入ったら、ギロチンころころだよっ!」


エミレは首をうねうねさせながら、得意げに説明する。

(※語尾をころころで可愛くしても、処刑は処刑です)


「まぁまぁ、それは置いといて。

 そこには、たしかに、呪印(シジル)の呪いとそれを解く方法については書かれていたけども。

 ……実は、そこには具体的な異世界に行く方法とか大事なところが、まったく載ってなかったんだよね。」


だからと、エミレは一拍おく。


「情報集めのついでに、まずはドウア国の覇者になっちゃおー!」


「いやいやいや、まずは情報を集めるところからだよ。」


「うーやっぱり、そうなるよね。でもねぇ、情報収集するにはちょっとした問題がありまして」


エミレは口に指を当てて、続ける。


「実は!!私ね、禁書庫に入ってるところ見つかっちゃって、教会に追われているところなんだよねっ」


そうして、本日2度目の、てへぺろをかます。

が、今回は、そこにすかさず、リュドエールルによる手刀が入る。


いたいと涙目になるエミレをつゆとも気にせず、シルアは続ける。


「もしかして、さっきいってた、へまって……」


「そうですそうです!追っ手に殺されかけてね。それで死に物狂いでエピネスの町に入り込んだって訳。

 いやぁ、あれはエミレの人生の3大危機の記念すべき、ひとつめに入るレベルだったわぁ~」


懐かしいなどと目を遠くにするエミレにすかさず、シルアが突っ込む。


「いや、エミレ。それ、済んだことのようにいってるけど十分、現在進行形の出来事だからね!?」


「そうなんだよね。下手に動いたら、殺されるかもだし……かといって、情報集めて、かっちょこく、ドウア国の覇者になりたいですし……」


「……完全に詰んでるじゃん、エミレ。」


そんなシルアの言葉を聞き流しながら、エミレは地図を木の棒でかき混ぜる。

が、その木の棒はある一点をさして、止まる。


その先には、冒険者の町――コラーレーと地図に記された町が。


(情報が入って、いいかんじに身分を隠せそうな職業といえば――)


「……あ、そうだ。冒険者になろう!」


「冒険者?」


シルアはぱちりと目をしばたかせる。


「そう、冒険者なら、身分も隠せるし、いい特訓にもなるし、お金も稼げるし、情報も集まるし……

 なにより、共に覇者を目指す、()()も見つけられるかもだし」


「ねぇ、なんで、仲間を強調したのいま」


「あっっと、それはデスネ……まぁ、癒し系のお姉さんがほしいなって。

 ――すぅ。

 私は!!ほしいの!!

 お姉さんが!!癒し系の!!ぼいんの!!」


エミレは地団駄を踏みながら、シルアに『お姉さん』の魅力をプレゼンする。


「エミレ、それ絶対に、熱弁することじゃないよね!?」


「だって、美少年ショタを拾った後にはぼいんなお姉さんがついてくるのは、覇者の王道展開だもん!」


「キャレレレレレレ!」


「ほら!キラッッぴこーんZ(ゼヱター)も全力で頷いてるよ!」


「おい、リュドエー……」


「……というわけで!!」


「ぼいんのお姉さんとの出逢いもとい、冒険者になるために!!」


エミレはシルアの腕をつかみ、上へ突き上げる。

それに乗じて、リュドエールルも天井へと跳躍する。


「行きますか!!コラーレーの町へ!!」

「キャルルルル!!!」

「……おー」


「さぁ、カモーン!

 ぼいんぼいん~ぼいんぼいん~!」


「キャルルルン~!

 キャレレレレ~!」


「……お願いだから、エミレその歌だけはやめて。

 ――お前もだ。リュドエールル?」


こうして、エミレとシルア、そして、黯光残星リュミエール・ド・レグジルの問題だらけの旅は始まったのであった。

こんにちは!読んでくださり、ご覧下さりありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

作者のルアンです٩(๑˃ ᵕ ˂ )و ヨロシクネ!!

プロローグを除く、冒頭10話、短編でババっとまとめさせてもらいました。の後編です。

いっや、まじで申し訳ございません。。想定以上に長くてね、3つに分けました。。

PONばかりでお恥ずかしい……どうぞみなさま、この哀れな阿呆を心の中でセルフポコポコしとくのでお許しを!!m(__)m


エミレちゃんたちの、旅はまだまだ続きます。といっても、まだ20話くらいしか出てないがなおほほ。

まぁ、でも個性豊かなキャラは出てきているのでお楽しみに!

気になった方は、本編の方にものぞいてくださると嬉しいです(人>ω•*)

シリーズのところを押してもらうか下部のリンクから飛んでくださいナ!

https://ncode.syosetu.com/n0952kh/

感想(読んだよって一言がこれまた嬉しい!ログインしてなくてもおっけーにしてるよ!)、ブクマ、お星様ぽちぽちしてくださると感動のあまりエミレたちと腹踊りパーティするので、どうぞよろしくお願いします!

(もしありましたら、改善点、誤字脱字、作者&キャラへのご質問もぜひお気軽に!くださるとありがたい!!)

ではでは、本当に読んでくださりありがとうございました!またねっ( *´꒳`*)੭⁾⁾

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