充電器に振り回される俺の人生、マジつらたん(´・ω・`)
……俺が生まれた日。
オヤジはデジカメ持参で病院を訪れたのだが、充電が切れていたせいで写真を撮る事ができなかったらしい。
おふくろとオヤジはそれはそれは仲が良かったというのに、その日初めて大喧嘩をすることになり、以降およそ50年にわたって事あるごとにこのエピソードを持ち出しては争うようになったのだ。
……俺が小学生の頃。
電池式の携帯ゲーム機を、お年玉で買った。
毎日何時間もゲームをするので電池はすぐになくなり、週300円の小遣いは電池代となって消えていった。
充電式の電池を買えばいいのにとツレに言われ、大好きなゲームを我慢しながら金を貯め、充電式電池セットを買ったら一週間で携帯ゲーム機が壊れ、努力をする虚しさを知ったのだ。
……俺が中学生のころ。
ばあちゃんの古いガラケーをもらった。
すぐに充電が無くなるので、常に充電コードに繋いだままゲームをしなければならなかった。
ハイスコアを出して満足して便所に行って帰ってきたら、じいちゃんが充電器のコードに躓いて転んでケガをしていて、以降事あるごとに俺のせいで寿命が縮んでしまったのだと詰られるようになったのだ。
……俺が高校生のころ。
親に格安スマホを買ってもらった。
夜動画を見ながら寝落ちばかりしていて、充電ゼロで学校に行くのが常だった。
しょっちゅう学校のコンセントで充電をしては見つかって、教師に目の敵にされてしまい、どうしようもないやつのレッテルを貼られて生き辛くなったのだ。
……俺が大学生のころ。
バイト代でスマホを買った。
いつ充電が無くなってもいいようにモバイルバッテリーを持ち歩くようになったら、パリピどもに目をつけられた。
いつも他人のために充電を満タンにするようになって、俺はきっと残りの人生もこんな風に誰かに使われて過ごしていくことになるのだろうなと悟ってしまったのだ。
……俺が就職したころ。
最新型のスマホを買ったにもかかわらず充電はすぐに切れてしまい、上司からネチネチと嫌味を言われるのが気に入らなかった。
肝心な連絡はいつも充電切れのせいで届かず、不測の事態が起きた時はいつも充電切れで連絡することが叶わず、どうせ全部悪い結果にしか繋がっていないのだと諦めてしまったのだ。
……俺がぼんやりと過ごしていたころ。
スマホの充電が切れているおかげで、嫌な連絡を受けることもなくなり気が楽になった。
電源が入ったところでスマホの画面は見づらいし、電話をかけてくるような親しい誰かはいないのだ。
……俺が、充電するなにかを持たなくなった、今。
充電できるモノに対して、うらやましいと思うようになった。
もう、俺の中には、パワーが残されていないのだ。
……少しでも、充電できたなら。
俺はすっかり歯の抜け落ちた口を開いて、充電コードの先をくわえるのだ。