[僕の>早すぎた判断は<みちを創り出す]
※この話は作者が経験し思ったことと、その生活の中でしていた妄想が混合されて出来た物語です。どれが妄想で、どれが体験かを考えてみるのも、この作品の楽しみ方の一つです。(実在する団体や個人名は変更しています)
特別に何かが出来る訳でもない。それでも自分が嫌いではない。自分にいい所がなくても家族や友達はそれを責めないからだ。それでも自分の嫌になる部分もある。自分は心が脆くネガティブで、頼ることも頼られることも苦手なのだ。自分は一人で生きられる程、強くなれないと分かっている。だからこそ、これは良くない事だと分かる。それでも誰かに頼って迷惑を掛けてしまうのが嫌だし、頼られても応えられる自信がない。なので何も変われずにいた。そんな自分には生まれ持った特殊能力みたいなものがある。それは自分が考えた、または望んだことが実現する事があるというものだ。しかしそれが起きると同時に自分の望まない、起きないで欲しい事も一緒に実現する。偶然かもしれないが、これまでに何度もそういう事が起きたから、自分の生まれ持った力だと考える事にした。その方が自分は誰かに存在を認められているような、少しの安心感を得られるからだ。
そんな自分は今高校1年生。中学の頃は将来何をしたいかを何も考えていなかった。だから、高校選びをする時は大学に入りやすい付属高校に入学しようという目標を立てた。しかし自分は頭が良くなかったので、家から遠い学校に加点を駆使してギリギリで入学した。そのお陰で両親や祖父母を安心させることが出来てとても嬉しく思った。しかし不安なこともあった。背伸びして入った高校だから回りについて行けるか、その高校には虐めがあるらしいから自分はターゲットにならないか、保育園や小学校、中学校の知り合いが誰もいないから孤立しないか。そんな良くない想像をしてしまう。しかし入学してみると不安な要素については殆ど問題なかったし、生活も中学の頃とあまり変わらなかったので心から安堵した。あとはこのまま何も問題を起こさずに友達ができれば理想的な学園生活と言えるだろう。
そして今日は夏休み前最後の登校日である終業式。成績表を受け取り、夏休みの宿題を渡され、校長先生の意外と短い話を聞き、ロッカーに入れていた教科書は既に持ち帰っていたため、仲の良い知り合いもいない自分は素早く帰り支度をすませ学校を出た。まだ慣れない帰り道の途中、誰かの声が自然と耳に入る。「貴方は夢飼弘斗の居場所を見つけられますか?」。自分の名前が聞こえ、話しかけられているのかを確認するため足を止めて辺りを見渡す。しかし近くには自分に話しかけようとしている人はいなかった。聞き間違えたか、はたまた空耳だったのだろうか。不思議に思いつつも、ずっとここにいる理由もないので駅に向かう。
学校から駅までは歩いて15分かかるのでかなり息切れして駅のホームに着いた。一度呼吸を整えようと深呼吸をする。電車は来ていない。まだ来るまでは時間があるから帰り道に聞こえてきた問いかけについて考えて暇を潰していよう。自分は家では勿論、友達との間に自分の居場所はあるし、学校でもクラスメイト全員に認識されてはいるので窮屈な感じはしない。しかし時々、本当に自分の居場所はあるのかと疑問に思ってしまうことがある。なぜなら家族や友達と過ごしていても、自分だけ何かが浮いているような感じがするからだ。それどころか自分の自身は、夢飼弘斗本人ではなく赤の他人で、自分含め全てに嘘を着いて生きているのではないかと考えてしまうことがある。そんな自分が、本当の意味で居場所を見つけることはまだ出来ないだろう。ダメだ。考え込むといつもこんなことばかりだ。このまま考えても何にもならないし、自分を追い込んでいるだけなのに。だけど電車が来るまでにはまだ時間がある。何か他のことを考えて気を紛らわそう。
そういえば今期のアニメで放送されている物の一つに、主人公が自分と同じような悩みを抱えているものがあった。その主人公は現実逃避をしようと走ってきた電車に飛び込んだが、気がつくと自分を轢いたはずの電車に乗っていて…という内容のアニメだ。これも含めて、アニメでは学生時代を描かれることが多く、この時期は大きく人生が変わったりするからだ。なので自分もアニメみたいに大きくなにか変わらないかを期待していた自分は、この生活を物足りなく感じていた。しかし一般的に高校生になっただけでそんな大きく物事は変わらない。それでも楽しい学園生活だったり、異世界転移だったりをしてみたいなと思ってしまう。そんなことを考えていると、ちょうど電車が来た。あのアニメの主人公とは違い、自分は普通に生きていたいから、電車に乗り家に向かう。
空いていた席に座り、スマホを開く。家に着くまでに1時間電車に乗るため、その間は家でダウンロードしてきたアニメを見ている。アニメは最高の娯楽であり、人生の教科書だから、学校を行き来するこの時間が憂鬱感を消し、心を休めてくれている。何を見ようかと、入れた動画の一覧を見ていると覚えの無い物が一つだけあった。その動画にはタイトルが無く、表紙となる画像がなかった。他にアニメをダウンロードしていなければ気づけなかっただろう。しかし自分はその動画にとても興味を引かれた。近頃はアニメを選り好みしているせいで観たいと思う物が少なくなっており、観たことあるものを見返していたからちょうど良かった。そうして思考を整理し、動画を再生する。しかし此処で唐突に気を失うのであった。
新たな世界の歯車は動き始め、物語がスタートしました。しかし次の話で大きく、思わぬ方向に進みます。これからも夢飼弘斗の人生を読んでいただけると幸いです。