「タモンさんの日常」の巻
タモンさんは、定年を過ぎても、同じ会社に嘱託として働き続けた。
そして六十五になり、退職した。
年金生活が始まったのである。
仕事が趣味みたいなものであったタモンさんは、趣味を失い、しばらくボーーーッとして過ごしていたが、やがて新しい趣味を見つけた。
つまみ食い、である。
つまんだ料理を食べ切ったら勝ち。
見つかって妻に叩かれたら負け、である。
ルールもタモンさんが決めた。
妻の留守中に「つまみ食い」はしない。
食べ放題だからである。
それではつまらない事この上ない。
洗濯物を取り入れると見せての「つまみ食い」などはスリルがあって良かった。
食器を洗っている、と見せての「つまみ食い」も、同様にドキドキした。
しかし、今日は真っ向勝負だ。
妻が料理をしている間に「つまみ食い」をするのである。
念の為にリビングの窓も開けた。
「おお。今日はオデンか。美味しそうだね」
と言いつつ、素早く小指と薬指の間に熱熱のダイコンを挟むタモンさん。
メッチャ熱かった。
指が千切れるんじゃないかと思うほどだった。
しかし、コレも「つまみ食い」の醍醐味。
そして妻に背を見せ、食べようとしたその刹那、
「お待ち! 鏡に映っているんだよ。この泥棒オヤジ!」
と妻が鋭く叫んだ。
「ああっ、いつの間にこんな所に手鏡がっ?!」
「お前さんの犯罪はすっかりお見通しよっ!!」
そして喰らう妻のアッパーカット。
窓から吹っ飛ばされるタモンさん。
(窓を開けていて良かった)
顎の痛みにシビレながら、タモンさんは味の染み込みが途中のダイコンと一緒に空高く舞うのであった。
(飛んでオトンとオデンと)
とんで、おとんとおでんと?!
お読みくださった方、ありがとうございます。
この作品には、「キャプテンアメリカ」へのリスペクトが含まれています。
漫画「キャプテンアメリカ」にハルクがゲスト出演した時、二人でひとしきり暴れた後、キャップのパンチ一発でハルクが天高く飛び去って行くのである。
ジム・ステランコの手になる随分昔の作品です。
モブキャラが、「ハルクが飛んで行く!」って叫んでましたっけ。
あ、こう言う退場で良いんだ。と、アタシは思いました。
いつか使ってやろう、とも。
そして出来上がった作品です。
構想は、何十年になるんだろう?
明日もまた、「続・のほほん」を、お昼の12時前後に投稿する予定です。
ほなまた明日、続・のほほん、で。