「赤字路線に乗って」の巻
某私鉄路線Aは、年間十億円の赤字だったが、沿線自治体の支援などもあって、まだ廃線には至っていなかった。
勿論、抜本的な解決にはなっていなかった。
その私鉄A線で通勤しているワシは、電車に乗る度にドキドキしていた。
A線は、ちょっとした風や、ちょっとした雪でよく止まったが、ほぼ元気に走っていた。
沿線の木の枝が車体に当たる事もあったが、電車が壊れる事はなかった。
赤字路線なんだから、車体のパーツは安物で、床がそのうち抜けるのではないか、とか、窓がいつか突然はずれるのではないか、とか、ビクビクしていたのだ。
そんな事もなく、早、二十五年が過ぎた。
いや全く、某私鉄さんには失礼な事ばかり考えていた。
そしてワシはとうとう退職の時を迎えた。
もうA線に乗る事もあるまい。
運賃が、くっそ高いからである。
定期代は無論、全額会社負担だ。半年定期で十三万を越えていた。二度、落とした事がある。
家計的には切腹モノである。
しかし、もう暴走運転の心配も、車体破壊の心配も、定期を落とす心配もないのだ。
乗らなくなるのだから!
そしてワシの退職の後、廃線が決まった。
赤字路線でも、それが市民の足であれば、当然、困る人も多い。
通勤(ワシだ。同僚も多かった)、通学。買い物にも乗るのだから、なおさらである。
一番悲しいのは、駅ではあるまいか?
電車は路線を変えれば走れるが、駅はそうはいかない。
存在意味を否定されるのである。
赤字だから廃線にしよう。
そう単純な問題でもないのだ。
ワシはもう無責任にも、廃線論はどうでもよくなったが。
そして、廃駅決定で、駅の流す涙は無論、ワシには見えなかった。
(消えよ失くなれ泣くなよ駅)
きえよ! なくなれ! なくなよ、えき!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日もたぶん「続・のほほん」!
お昼の12時前後に投稿するかと思います。
ほなまた明日、続・のほほん、で。
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「魔人ビキラ」が117話で終了しています。
よかったら、読んでみて下さい。