「逃げも隠れもしない」の巻
サルワタリ氏が、スーパーのガラガラ抽選会で高級肉を当てたというのは、彼の住むアパートの住民にたちまち知れ渡ってしまった。
貧乏画家のサルワタリ氏に、普段から金銭的援助をしていた貧乏仲間たちは、
「こういう時はお返しをされるのが道理だから」
と、サルワタリ氏の居ぬ間に、部屋へと忍び込んだ。
貧乏仲間に鍵開けの名人が居たのだ。
「探せ、探せ。サルワタリの帰って来る前に持ち去るんだ」
冷蔵庫の中! には無かった。
「いや、ヤツの性格からして、もう食っちまったはずはない」
「そうとも。今日の昼に肉を当てたばかりだ。夜まで残して拝むに違いない」
机の引き出しには? 無い!
流しの下には? 無い!
天井裏には? 無い!
押入れの中には? 無い!
万年床の中には? 無い!
便所と風呂は、もともと部屋に無かった。
部屋にはイーゼルが立てられ、描きかけの絵が掛かっていた。
肉の絵ではなかった。
床に敷かれた新聞紙の上には、油絵の具、絵筆、木炭、食パン、パレットなどが、散らばっている。
「男ヤモメに蛆が湧くぜ」
「しかし、肉を何処に隠しやがった?!」
肉は隠されていなかった。
特等の高級肉を当てたサルワタリ氏は嬉しくて、額に入れてきちんと飾っていたのだった。
(肉が額に)
にくが、がくに?!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も「続・のほほん」を投稿予定。
朝の12時前後になるか、
夕方の5時前後になるか、未定です。
両方の時間に投稿出来たら嬉しい。
ほなまた明日、続・のほほん、で。