「火の車」の巻
火の車、という妖怪がいる。
文字通り、燃える車輪である。
火の車は今日も機嫌良く、道路の左端を走っていた。
と、そこへ、太くて大きな燃えるタイヤが火の車の前に入って来た。
「な、なんでぃ、てめえは?! 割り込みは御法度だぜ!」
火の車は怒って、そのぶ厚いタイヤに体当たりした。
謝罪の言葉もなく、道路に横倒しとなる割り込みタイヤ。
しかし火の車もバランスを崩し、横倒しとなった。
一時横倒しとなると、起きられない火の車は焦った。
「ひーー! 誰が起こしてくれえ」
しかし誰が燃え盛る車輪を起こせようか。
倒されたタイヤと、妖怪・火の車は並んで燃え続けた。
太いタイヤ、それは近くの交通事故で、爆発に巻き込まれて吹き飛んだものだった。
火の車と出会った時は、すでに絶命していたのだ。
トラックの運ちゃんが、はずれたタイヤを拾いに来て言った。
「おっ、こっちのタイヤは、まだ息があるじゃないか」
そう言って消化器で火の車の炎を消すと、運ちゃんは持って行った。
そんな訳で、火の車は自由と炎を奪われたが、今もトラックのタイヤとして道路を走っている。
時々脱輪しながら。
(燃えて痛えも)
もえて、いてえも!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、「続・のほほん」は、明日の午後5時前後に投稿の予定です。よかったら、読んでみて下さい。
もうひとつの投稿、「魔人ビキラ」も、回文オチのショートショートです。本日投稿済み。
よかったら、読んでみて下さい。