「釣られる魚」の巻
「わっ、わたしなんか食べても美味しくないから。ただの雑魚だから」
引き網漁に掛かった人魚のサトコが叫んでいた。
「喋る魚とは気味が悪い。逃がそう」
「いやいや、これは人魚という生き物じゃ。食べれば万年も生きられるというぞ」
「万年も生きてどうする。一万年後など、人間なんぞとうに滅んで、ゴキブリの支配する世界になっとるぞ」
人魚を引き上げた船の上で、漁師たちが話し合っていた。
「では、こうしましょう。わたしがもう少し食べやすい魚を連れて来ましょう」サトコが提案した。
「うむ。確かにお前は美人で食べにくい」
「騙して逃げたら、お前たちを皆殺しにするぞ」
漁師は人間らしい脅し文句を言った。
「大丈夫です。わたしは嘘を申しません」
千九百六十年の、池田勇人首相のような発言をして、人魚は海に戻った。
やがて、船にのっそりと上がってくる半人半魚。
「ここか? ご馳走を食べさせてくれるという屋形船は?」
「お前がご馳走だよ」
「うん。魚の頭か。確かにこっちの方が食べやすい」
「その立派な下半身は邪魔だから、切り落として海に捨て、サメの餌としよう」
と話し合う漁師たち。
こうして半魚人フミタカは、船上で捌かれた。
サトコも、言い寄るうっとうしい男性を処分出来て嬉しかった。
身体の下を高速で飛び去るクマサカガイには、気が付かなかった。
(責めを負う魚を召せ)
せめをおう、うおをめせ!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も「続・のほほん」。
午後5時前後に投稿予定です。
ほなまた明日、続・のほほん、で。
クマサカガイが分からない人は、前作のエピソード49「パピンペの新たな人生」を読もう。