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「恋人」の巻
「ヤスコちゃん、いつまでも変わらないねえ」
「だってカズオくん、おかっぱ頭が可愛いって言ってくれたから」
「あれから何年になるかなあ」
頭に白いモノが混じり始めた初老の紳士がつぶやいた。
「あたしたちに年齢は関係ないわよ。だって、恋人同士だもん」
ランドセルが似合いそうな、おかっぱ頭の少女が紳士を見上げて笑った。
ヤスコちゃんとカズオくんは、もう何十年も恋人同士だ。
そしてころからも、ずーーーーっと。
(恋なら分かる変わらない娘)
こいならわかる。かわらないこ!
*** *** ***
ボールを投げてくれる飼い主、頭をワシャワシャ掻いてくれる飼い主の家族。名前を呼んでくれる人間たちも、散歩で出会う仲間たちももういない。
もう、大晦日であった。
今年最後の夕陽が海に沈みつつある。
世界でただ一匹、生き残った飼い犬のジローはつぶやいた。
(つまんねえ年末)
つまんねえねんまつ!
と。
明日も、「続・のほほん」を、午前7時前後に投稿予定です。
ではまた明日、のほほんで。