「味噌の講釈」の巻
味噌樽から身を乗り出して、味噌が講釈を垂れていた。
「八丁ミソ、信州ミソ、仙台ミソなどが有名ではあるが……」
ミソ樽の前には、漬けらる予定の、キュウリやナスなどが整列して、大人しく聞いていた。
これから我が身を任せる相手である。
失礼があってはイケナイと、皆が考えていたのだ。
「ワシの名は、旧石器ミソ。かの縄文ミソよりも歴史のある、由緒正しきミソなのである」
(旧石器時代に、オレらを漬ける土器があったのか?)
と、いぶかるキュウリやナスもあったが、やはり静聴している果実たち。
「かの高名なる俳諧師、松尾芭蕉は伊賀の生まれだと言うだけで忍者にされ、諸国を隠密行動して回った、などとデマを飛ばされておるが……」
(おろ? また芭蕉が出て来たぞ)
と、多くの果実が気がついた。
「あんなデマとは一味違う、ワシの濃厚な旨味、江戸甘ミソも裸足で逃げ出す上品な甘みは、誰もが認めるトコロである!」
(あれ? この下り、さっきもあったぞ)
と思う果実の多き事。
「この滑らかな舌ざわりは、一度味わったら、忘れられまいて!」
その台詞もまた、二度三度と聞いたものだった。
「ミソの先生。講釈はそれくらいにして、そろそろオレらを漬けちゃあくれめいか?」
とうとう気の短いナス、茄子ノ介が声を上げた。
「長い! 長すぎるんだよ、アンタの話は!」
「ダラダラ聞いてたら、こちとら水分が飛んじまって干物になっちまうよ!」
言いたいのをジッと我慢していた胡瓜左衛門、茄子の与一も叫び始めた。
「ま、待て! 話せば分かる!」
慌ててなだめる旧石器ミソ。
「うるせーー! こっちはミソまみれを覚悟して来てんだぞ!」
「テメエの自慢話を聞きに来たんじゃねえや!」
「さっさと漬けやがれ!」
それから、
「早く漬けろ!」の大合唱が起きたという話である。
(簡潔に漬けんか)
かんけつにつけんか!!
今さらですが、回文オチのショートショートです。
気が抜けるかも知れませんが、こういう作品群です。
一応、力尽きたのですが、たまに書きたいと思っています。
これからもよろしくお願いします。
長編「蛮行の雨」。連載中。
セミリタイア「魔人ビキラ」などもあります。
よかったら、読んでみて下さい。




