「サンジューローの決意」の巻
ここは八重山諸島である。
二十メートルを優に越える高木の幹に、卵形の果実が群れを成し、樹皮をおおうように垂れ下がっていた。
フサナリイチジクの実たちである。
直径はそれぞれ、二、三センチくらいか?
そのうちの一粒、サンジューローは怒っていた。
「くそーー、ヒヨドリの野郎。仲間を次々と食べやがって!」
「あっ、サンジューロー。あまり実を揺らすなよ」
「そうだよ。落っこちたらどうするんだ」
果実仲間のトシローやハチローが騒いだ。
「それに、ヒヨドリ殿に喰われるのは悪い事ではないぞ」
と、成熟したツクモが言った。
「ヒヨドリ殿は他所で糞をして、そのフンに混じっていた種から、新しき母なる木の芽が生まれるのじゃ」
「ふん。そんなもんは都市伝説だ。それだったら、そこら中に母ちゃんと同じ高い木がなきゃオカシイじゃないか」
言い返すサンジューロー。
「そう言えば、ボクらの仲間はいないよなあ……」
あたりを見回してつぶやくトシロー。
「いる所に行けば、沢山いるのじゃ。たまたまこの茂みにいないだけじゃ」
と、喚くツクモ。
「あっ。ヒヨドリが来たぞ。オイラを食べておくれ! そうして遠くに運んでおくれ!」
ツクモに感化されたハチローが大きな声を出した。
その声が聞こえたのか、ヒヨドリはサンジューローたちの房に真一文字にやって来た。
「あたしを食べて、ヒヨドリさん!」
「オレを食ってくれ、ヒヨドリ!」
「ワシは熟して美味しいぞ、ヒヨドリ殿!」
フサナリイチジクたちは騒いだ。
「させるか! これでも喰らえ! 仲間はボクが守るぞっ!!」
サンジューローは火事場の馬鹿力を出してフサを飛び出し、ヒヨドリの口に突っ込んだ。
「ギョエッ?!」
ヒヨドリはいつもの騒々しい声で叫び、サンジューローを喉に詰めて木から落ちて行った。
「ああ、サンジューロー! 早まった事を!」
ツクモが自ら器用に皮を剥がし、頭を抱えた。
やがて長い長い時が流れた。
かあちゃんの木の隣に、ヒヨドリの骸から芽を出したサンジューローが、かあちゃんに負けずに育ちつつあった。
フサナリイチジクは、優曇華とも呼ばれている。
(優曇華の言動)
うどんげの、げんどう!
今さらですが、回文オチのショートショートです。
久々の「続・のほほん」でした。
長編「蛮行の雨」に行き詰まり、気晴らしに考えました。
次の投稿は不明ですが、よろしくお願いします。
長編「蛮行の雨」。連載中。
セミリタイア「魔人ビキラ」なども書いております。
よかったら、読んでみてください。




