姫子ちゃん」の巻
「姫子ちゃんと、こう、二人で歩いているだろう?
すると、ヒュ〜〜ドロドロ! って効果音と共にオバケが現れて、姫子ちゃんが、
『きゃあ、怖いっ!』ってぼくに抱きつくんだよ。
こうして、ぼくの恋は成就するんだ」
「で、そのオバケの役を、オレにしろって言うんだな? ゴロウ君」
「うん。こんな恥ずかしい事、キミ以外に頼める人がいないんだ」
「よし、分かった!」
フクザツな思いで、タスケ君は承知した。
「オレに任せろ。御先祖様の名に懸けて、キミの願いを叶えてみせるぜ!」
タスケ君の先祖は、かの、一心太助だった。
実直でお節介な魚屋で、事件に顔を突っ込む性癖がある自慢の御先祖様。
タスケ君の家業の魚屋は、スーパーの中の小さな店舗になったが、「一心、鏡の如し!」は未だ健在だったのである。
夜である。
わざと遅くなったクラブ活動の帰り、
「近道だけど、墓地の横を歩くって、なんだか怖いわね」
姫子ちゃんはそう言って、ゴロウ君に身を寄せた。
(来た来た来たーーー!)
内心、大いに興奮するゴロウ君。
その時、
ヒュ〜〜〜ドロドロドロドロ!
の効果音が辺りに鳴り響いた。
「むっ、何奴!」
手筈通り、姫子ちゃんを庇って前に出るゴロウ君。
「んばあ〜〜〜っ!!」
墓石の向こうから、大頭の大入道が出現した。
凝り性のタスケ君が、徹夜して作り上げた全長三メートルの業物、ハリボテオバケであった。
「きゃーーっ! オバケーー!」
姫子ちゃんは柔道家らしく、タスケオバケにゴロウ君を、一本背負いで投げつけて逃げ出した。
見事に相打ちにとなり、墓場に倒れて失神してしまうゴロウ君、タスケ君。
そこに、兄を連れて帰ってくる姫子ちゃん。
倒れている二人に喝を入れ、事情を知らされる姫子ちゃん。
「なあんだ、そんな事だったの。私は愚直が服を着たようなタスケ君が、前から好きだったわよ」
思わぬ展開に、また倒れてしまうタスケ君。
恋の橋渡しに役立ったゴロウ君は、それなりに納得するのだった。
情けは人の為ナラズ。と。
(怪効果を買う恋か?!)
かいこうかをかうこいか?!
お読みくださった方、ありがとうございます。
午後からは、「ビキラ外伝」を投稿予定です。
ではまた、ビキラ外伝、で。
この後、チカラ尽きた感じで長らく休みました。
長編「蛮行の雨」。連載中。
セミリタイア「魔人ビキラ」なども書いております。
良かったら、読んでみてください。