「占い師ヒミカ」の巻
占い婆ヒミカは、
「仕事柄、迷う事は許されない」
と思っていた。
「携帯ラヂオが壊れてしもうた。情報収集のためにも代わりを早く買わねば」
占い師ヒミカ婆は、少し気が重かった。
いつも買い物に行ってくれる孫娘が、風邪で伏せっていたのだ。
(自分で買わねばならん。若い頃と違って、直感が鈍ってきておるのに)
重い腰上げ、家電街にやって来たヒミカ婆さん。
「ああ、ここにしよう」
通りの三軒目の店に入った。
「おっ。ヒミカ婆さんが、あの店に」
「きっと見掛けによらず良い品があるんだろう」
そんな声が背後から聞こえてきて、ドキッ! とするヒミカ婆さん。
(これじゃから、自分で買い物はしたくないんじゃ。良いか悪いかなんぞ知らんわい、こんな店)
こんな店、とはあんまりな言い方だが、実際はずみで入っただけで、よく知らない店だった。
「えーーと、このラヂオにしよう」
分からぬままに即決するヒミカ婆さん。
そもそも知識がないので、迷うだけ無駄だと思っていた。
「おっ。少し古いタイプの携帯ラヂオを手にしたぜ」
「古くても良い品なんだよ。だって選ぶのに迷いがなかったろう?」
「おう、危ないあぶない。店先に居た二人、付いて来たのか?」
ヒミカ婆さんは、振り返りたいのを堪えてつぶやいた。
「占い師が迷ってはいけないからのう」
客の迷い人を不安にさせてしまうからだ。
「このラヂオの電池はこれで良いのか?」
またも即決するヒミカ婆さん。
「イヤホンはこれで良い」
ほいほい決めてゆく占い師、ヒミカ。
「カバーはこれにしよう」
「さすがだな、もう買い物が終わったみたいだぜ」
そんな声が背後から聞こえてきた。
(ぐふう。威厳を保てヒミカ。ベテラン占い師らしく!)
自分に言い聞かせるヒミカ。
(ひょっとして「古い携帯ラヂオ」と言う部分から間違っていたのではないか?)
と思いつつ、諸諸の商品をレジカウンターに持って行った。
「さすがですね、ヒミカさん。この倒産メーカー激安商品を見つけて来られるとは」
カウンターの若いレジ係は、笑って言った。
(むう? ワシの第六感は衰えておらなんだのか?)
(いや、店員のただの社交辞令か?)
自信はなかったが、不敵な笑みを浮かべ占い師ヒミカは、
「まあな」
と答えた。
(家電買う。勘でか)
かでんかう。かんでか?!
お読みくださった方、ありがとうございます。
これは、「魔人ビキラ(本編)」の前書きのショートショートに加筆修正したものです。
ネタが同じなので、前書きは消しました。
ほなまた、明日。
 




