「夢はいらんかね?」の巻
「えーー、夢、夢、夢。夢はいらんかねーー」
天秤棒をかつぎ、獏は「夢」を売って歩いた。
「獏さん、そんなおっかない顔をして、なんの夢を売ってるの?」
ウサギが長い耳をぴくぴくさせて、質問した。
「え?」
獏は自分の長い鼻と、口から飛び出た二本の牙を撫でた。
「ワシ、そんなに顔が怖い?」
「ええ、悪夢を見そう」
「おお……」
獏は悪夢を食べたくて、悪夢を売っているのだった。
「するとこの悪夢はもう要らないか」
天秤棒に下げた桶の中で微睡む悪夢たちを見る獏。
「良いことを教えてくれたね、ウサギさん。お礼に夢見の良い悪夢をひとつ、差し上げましょう」
「えっ、悪夢? でも夢見が良いのなら頂きましょう」
売る気がなくなったので、獏は、
「えーー、大吉の悪夢、不幸が逃げる悪夢、天にも昇る悪夢」
いい加減なことを言いながら、悪夢をばら撒き始めた。
「タダより安い悪夢はない。もってけドロボーー!」
タダだと言うので、キツネ、ヤマネ、タヌキ、ムジナ、モモンガ、ヤマネコ、ヤマンバ、お婆さん、お爺さんたちが、我も我もと押し寄せ、悪夢はたちまち捌けた。
その夜、獏が悪夢を食べようとウサギの夢に侵入すると、自分の顔の大写しが天空にあった。
「ひええ! お化け?!」
悪夢の中の自分の顔は、いっとう怖かった。
結局、その後も獏は、他人の悪夢に侵入しては驚き続けたと言う話である。
タダで配られた悪夢たちの、逆襲であった。
(配る獏)
くばる、ばく!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も、「続・のほほん」。
朝の7時前後に投稿予定です。
木曜日の投稿は、お休み。在庫を作らなければ。
ではまた、明日、のほほんで。




