「チクタクなお尻」の巻
お尻がチクタク鳴り始める事がある。
妖怪「尻時計」の仕業である。
何の意味があるのか?
意味なんてない。
ただの悪戯だからだ。
しかし時と場合により、大変に恐ろしい。
意を決して彼女にプロポーズした時に、お尻がチクタク鳴り始めたら?
「わたし、そう言う冗談、嫌い!」
ぶち壊しではあるまいか?
総理大臣が群衆を前に路上演説をしている時に、群衆からチクタクオナラが聞こえてきたら?
「すわ! 時限爆弾?!」
「すわ! テロリスト?!」
素直に演説を聞いていただけなのに、警備隊に捕まるのである。
ぼくはその両方を体験したのだ。
許さん! 尻時計!!
怒りに燃え、「尻時計駆逐隊」を創設しても、無理からぬ所ではあるまいか?
隊員は今のところ、ぼくだけだが。
妖怪尻時計に対する罠は、さほどムズカシくない。
奴は緊張するような場面になると、出現するからだ。
今回の会社の面接など、間違いなく狙って来るだろう。
面接室で胃痛に耐え、順番を待った。
ついに名を呼ばれた。
「はいっ。三角 六朗、二十六歳です!」
ちくたく。チクタク。ちくたく。と、尻が鳴った。
「やっぱり来やがったな、妖怪尻時計!」
ぼくは椅子から立ち上がり、ポケットから湿布を取り出した。
「ちょっとすみません。今、尻時計という妖怪が出ておりまして」
抗炎症用シップの強力な粘着力を利用して、捕える作戦だった。
シールを剥がし、ハッシ! とばかりにシップを尻に貼るぼく。
「止まった? チクタク止まった?!」
チクタク。ちくたく。チクタク。ちくたく。
「ああっ、やっぱり駄目かっ?!」
立ったまま頭を抱えるぼく。
「君、器用なオナラをするねえ」
ひとりの面接官が言った。
「よし、宴会部長に任命しよう。採用だ!」
「えっ! あっ? オナラ?! いやコイツは妖怪尻時計という……」
面接を終え、廊下に出て、臀部のシップを剥がしてみると、なんと妖怪尻時計を捕らえていた。
「ついに捕まえたぞ、妖怪め!」
しかし、希望の会社に採用されたのは、この尻時計のお陰である。
恩人なのである。
シップの粘着部分から尻時計を剥がして、逃がしてやった。
それからぼくは、いかなる重要会議でも臆せず尻時計を発動した。
止めようがなかったからだ。
出世コースからは大幅に外れたが「豪胆の六朗」として、会社で浮き名を流すようになった。
オナラ仲間も出来た。
近々、オナラ学会を創設してみようかと思っている。
教訓。尻時計は生け捕りにすべし!
(生け捕りした尻時計)
いけどりした、しりどけい!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
回文と、発想が直結した感じの話で、失礼しました。
ちなみに、面接で採用された事はありません。
しかし、何とかなるものです。
無事に63歳まで勤めました。
年齢が少し中途半端なのは、癌になって、くじけて会社を辞めてしまったからです。
でも、なんとか生きています。
ではまた明日、
「蛮行の雨」と、回文オチのショートショートで。




