「廃駅にて」の巻
「いやあ、廃駅は情緒がありますなあ、シモダさん」
「やはり、廃駅すぐはイケませんな。人の名残りが感じられて、侘び寂びが薄いですからなあ、ウエムラさん」
「このプラットフォームのあちこちに生えた苔は、なんとも言えませんなあ」
三両編成の電車が、駅を通り過ぎて行った。
路線が廃止された駅では無かったのだ。
犯罪系撮り鉄のように、立ち入り禁止の廃駅な佇んで、廃駅マニアのシモダさんとウエムラさんが語り合っていた。
「何が廃駅じゃーーーい! ワシは認めんぞお!」
「うわっ、いきなり大きな声を出さないで下さいよ、シモダさん」
「いや、ワタシではない。屋根から降って来たような」
「いや、プラットフォームから湧き上がって来たような」
「ワシだ、ワシ! ワシは廃駅に賛成しなかったぞ。今も認めてはおらんぞ!」
ナカマチ駅が喋っていたのだった。
「ワシゃあ、人々の靴の裏が好きだったのに」
「おお。ナカマチ駅さん?! 廃駅お疲れ様でした」
と、シモダさん。
慰めになっていなかったが。
「疲れてはおらーーん! ワシゃまだ働けるっ!」
ナカマチ駅の気炎は高かった。
(気炎駅) きえんえき!!
(消えん駅) きえん、えき!!
「分かったよ、ナカマチ駅さん。私たちは廃駅マニアなのだが、あなたがそこまで言うなら、この駅の復活運動をするよ。なあ、シモダさん」
ナカマチ駅は、廃駅になって久しい。
復活は無理だと思いつつも、ウエムラさんは言った。
「そうだな、ウエムラさん。頑張ってみるか」
心の中に、燃えるものを感じるシモダさんだった。
ナカマチ駅は喜んだ。
喜悦と言って良かった。
「よろしくお願いします!」
駅は深々と頭を、いや屋根を下げた。
下がった屋根は、元に戻らなかった。
翌日、崩れ落ちた。
しかしナカマチ駅は喜んでいた。
崩れ落ちた屋根を見て、シモダさんもウエムラさんも喜んでいた。
(喜悦駅) きえつえき!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日の金曜日は、「蛮行の雨」第五十七話、
「ローカル魔王ドゥクェックの話」後編を投稿します。
明日の午後には、回文オチのショートショート、
「続・のほほん」か、「新・ビキラ外伝」を投稿する予定です。
頑張れ、オレ。たとえ、ネタが尽きようとも。
(尽きたら書けんやろ。
と、思われた方、その通りです)




