「海岸公園」の巻
「沖合いに見えます島が、淡路島」
そして北側を指すガイドさん。
「少し北に行けば、東経135度、日本標準時子午線上に建つ、天文科学館も見えます。後で参ります」
また海に手を戻し、
「そしてこの瀬戸内の海におりますのが、かの有名な明石ダコで御座います」
明石海岸公園をガイドは滔滔と紹介していた。
「防波堤に立つ黒い鳥は、海鵜。のみならず、川鵜も混じっておるので御座います。私のような素人には見分けがつきません。あっ、そしていま飛来して参りましたのが、サギ科最大の鳥、アオサギで御座います!」
「明石ダコ、さぞ美味しいのでしょうなあ」
十人ばかりの観光客の、一人が言った。
「もちろんで御座いますとも。あちらのスーパーで、明石ダコを使ったタコ焼きを食べて頂きます」
「おお。明石焼き、とか言うヤツかのう?」
「いえ、あの、明石焼きは、高う御座いますので、ソースとカツオ節、紅生姜に青のりで食す普通のたこ焼きで御座います」
「それは、残念」
「ちなみに、地元では、明石焼きは単に『玉子焼き』と呼ばれております」
「卵焼きと言うと『厚焼き玉子』を連想しますのう」
「形が全然違いますが、どちらも美味しゅう御座いますね」
と、ガイドさん。
「(厚焼き玉子』に、タコは入っておりませんな」
「関西の『だし巻き玉子』にも、タコは入っておりません」
「明石は、タコの他にも鯛が有名ですな」
「はい! 明石鯛は、日本酒の名前にもなっております」
「おお。明石ダイの刺身を、その日本酒で頂く?!」
「もちろん、観光コースには入っておりません」
「格安観光案内ですからな、承知しておりますとも」
観光客の一人が、気を取り直して言った。
「明石のタイとタコは、世界に誇る食材かと存じます」
ガイドのその言葉に、観光客が笑顔で拍手した。
しかし、瀬戸内の海では、ガイドの言葉に怒っている者もいた。
「誰が忘れていませんか、ってんだ!」
烏賊だった。
イカは自己主張のために、海面に跳ねた。
「おお。何か海面に跳ねましたね」
海面を見る観光客。
しかしすでにイカの姿はない。
「タイじゃないですかね? この防波堤でも、真鯛が釣れるそうですよ」
と、ガイドさんが言った途端に、釣り人の一人が赤い魚を釣り上げた。
「まさか、まさか!」
釣ったおじさんが叫んでいた。
マダイだった。
再び起こる観光客の拍手。
「くっそーーー! もう一度だっ!」
イカは再び海面に跳ねた。
鳶に拐われた。
(大海に烏賊居た)
たいかいに、いか、いた!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
かなり身近な題材に走った、とか思われた方。
否定しません。
体験談が入っている、と思われた方、も否定しません。
また、ブッ飛んだ話が書きたいです。
今日中に、「新・ビキラ外伝」を投稿したいです。




