「おそ松くん」の巻。その他
「おそ松くん」の巻
「『おそ松くん』って漫画、知ってるかい?」
会社の昼休み、仕事仲間がいきなり聞いてきた。
名前も知らない相手だったが、ぼくは、
「ああ、知ってるよ。赤塚不二夫と言う漫画家の作品だ」
と、調子を合わせた。
「そうそう。六つ子の話だ。おそ松。チョロ松。カラ松。トド松。市松。十四松」
「兄弟の名前までは、覚えてなかったよ」
だから、同僚の言う名前が正しいのかどうかも、ぼくには分からなかった。
「それでね、おそ松くんらの従兄弟にも、似たような名前のが居るんだぜ」
「いとこに? へえ、それは知らなかった」
ぼくは正直に答えた。
「クズ松。ぼくだよ」
クズ松さんはそう言って、何かにつまずいて転んだ。
(つまずくクズ松)
つまずく、くずまつ!!
*** *** ***
「塩分問題」の巻
山路で、ぼくは見知らぬお爺さんに話し掛けられた。
「こんにちは。外科に行くなら、タンゲ先生だと思わないかね?」
ぼくはタンゲ外科は聞いた事があった。
しかし興味がなかったので、
「そうなんですか?」
と、気のない返事をした。
「だって、タンゲ先生は、食事の塩加減まで注意してくれるんだよ」
「えっ? 内科医じゃないのに?」
「そう、外科医なのに!」
「なんなんですかね?」
「さあ、なんだろうねえ」
山から下って来たお婆さんが、
「オニギリの塩分濃度は、0.6%が美味いそうじゃ」
と言った。
「おお、あなたもタンゲ外科に行ってらっしゃる?」
見知らぬ老人が身を乗り出して言った。
「うんむ」
うなずいて、
「ミソ汁の美味しい塩分濃度は、0.8%じゃ」
とお婆さんは言った。
「ははあ、勉強になります」
ぼくはとりあえず人生の先輩にヨイショした。
「人間の塩分濃度は、0.9%ある。これを美味いと思う生き物もおるかも知れんのう」
と、お婆さん。
「ああ、熊とか。『アイツは人間の味を覚えた』とか聞きますもんね」
と、ヨイショし続けるぼく。
「ここは山だから、熊も怖いが、天狗や山男も怖いね」
と、見知らぬお爺さんが戯けた。
「うんむ。山姥もな」
お婆さんは舌舐めずりをして、
「タンゲ先生が申しておられた。塩加減で美味さは決まる」
異様に発達した八重歯と長い舌を見せた。
(塩加減外科押し)
しおかげん、げかおし!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日の金曜日には、
「蛮行の雨」第五十五話、「蛮行の雨VSアマゾネス」
後編を投稿します。
回文オチのショートショートも投稿する予定です。
ではまた、明日。