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「トンネルを抜けると」の巻
その凶悪犯は、トンネルに逃げ込んだ。
名をハンジと言った。
雪国への、長い長いトンネルであった。
「へへっ、この国境の長いトンネルを抜けると、雪国でい!」
凶悪犯ハンジは安堵して、そんな事を言った。
「逃げ切ったぜ。チョロいもんだ、平和ボケの国なんてよ」
だが、天知る地知るチルチルミチル。
どっこい、そうは問屋が卸さなかった。
「ワイの国で勝手な真似しくさって! 何が全国無銭殺人 行脚じゃい、アホンダラ!」
山は怒っていた。
トンネルを抜けてハンジは驚いた。
「な、なんでい?! なんで元に戻っちまってるんでい?!」
「お山そのものが関所になってるんや」
「この国の良心なんや、お山は」
「お前みたいな凶悪犯を、お山のトンネルが、許すはずがないんや!」
ハンジが出て来るのを待っていた警官たちが、口々に言い、笑った。
「畜生、山の野郎、てめえらとグルだったのかっ?!」
「違うな、ハンジ。グルやないで」
否定する警官。
「正しくは、『グルっと』や!」
(トンネルが曲がるねんと)
とんねるが、まがるねんと!!