「番傘」の巻
「うお。重いですね、この番傘」
と、中年客。
「ええ。お客様のように体格の良い方でないと、使用は無理ですね」
と、傘屋の店員。
番傘とは、竹骨に油紙を張った雨傘の事である。
時代劇で、浪人や甲賀忍者が内職でよくやっている傘張りの傘がコレだ。
江戸時代、雨傘の新品は高価であったが、傷んだ中古の張り替え傘なら庶民にも買えたので、実際に傘の張り替えの仕事は人気であったそうだ。
雨傘は便利で、買い手も多かったからである。
さて、話は現代に戻る。
「熟練の石工の手による逸品ですよ。ただし、畳めませんが」
「随分と客を選ぶ雨傘ですねえ」
「実は、雨も選ぶんですよ」
「雨を? どういう事でしょうか?」
「小雨や、細雪はオッケですが、いわゆる豪雨には使えません。砂岩で出来ていますからね」
「あーー、吸水力が高いので、重くなるんですね」
「そうです、そうです。そんな状態で落とすとバラバラに!」
「一本、頂きます!」
中年客は目を輝かせて言った。
さすが、非実用品学会の会員と言うべきか。
(初めて売れた!)
店員も、感動に打ち震えていた。
(砂岩番傘) さがんばんがさ!!
砂岩番傘を買った中年男は、豪雨の日、さっそく外に出て件の傘を差した。
(どれくらい耐えるのだろう?)
という好奇心からであった。
こういう好奇心と損失が、日本の経済を回しているのである。
一方、番傘は、
「拙者は、飾り傘だろうがっ!」
とか、
「実用向きじゃないんだ! 見りゃ分かんだろうがっ!」
とか、
「あっ、わざと斜めに差すんじゃない!」
とか、
「濡れる! 内側が濡れるう!」
とか喚きながら頑張っていた。
(番傘ガンバ) ばんがさ、がんば!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日は、「続・のほほん」か「新・ビキラ外伝」を投稿します。
ビキラ本編、回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」も、回文オチ形式のショートショートです。
よかったら、読んでみて下さい。




