「霊媒師、冴える!」の巻
「こいつ、絶対、何かに取り憑かれていると思って」
サイトーさんは、オウガさんを連れて、横丁の霊媒師を訪れた。
「おう、目の下のクマ!」
「コケた頬!」
「充血した両目!」
「震える手足!」
「薄い頭髪!」
オウガさんを見て次々と指摘する霊媒師。
「薄毛は三十年前からだよ」
サイトーさんは、一応、訂正を入れた。
「なんじゃろう? 悪霊憑きじゃろうか?」
「それを聞きに来たんだけど」
ぐったりとして背もたれ椅子に座っているオウガさん。
「ああ、うん、任せて下され」
と言って、
勾玉とか、
曼陀羅とか、
蜥蜴の尻尾とか、
水晶玉とか、パワーストーンブレスレットとか、
万年貝とか、
ルーン文字セットを机に出して来る霊媒師。
トカゲのシッポを噛みながら、
マンダラの上にルーン文字を転がし、
パワーストーンのブレスレットを左手に持って振る霊媒師。
そして右手に持つ水晶玉を覗き込む。
「うおお。本当に見えて来たぞ!」
目を剥く霊媒師。
「見えましたかっ!」
釣られて歯を剥くサイトーさん。
「この者はサナダ虫に取り憑かれておる!」
「えっ? サナダ虫? 駆虫薬で取れるやつ?」
「保険適用外となります!」
「本当ですか? サナダ虫と言うのは?!」
「恥ずかしながら、こんなに気持ちが冴えたのは生まれて初めてです!」
「夢夢疑う事なかれ!」
「信ずる者は救われる!」
「虫に汚染された生肉を食べましたな?!」
「うむ、牛肉が見えましたぞ!」
「放っておくと、十メートルにも育ちましょう!」
サイトーさんはその後、オウガさんを連れて内科を訪れた。
霊媒師の見立ては、バッチリ当たっていた。
最初から内科に連れて行けば良かったのだ。
(えサナダ虫無駄な冴え)
え?! さなだむし? むだなさえ!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
薄毛は作者がそうなので、御容赦下さい。
明日も「続・のほほん」を投稿します。
同じ回文オチ形式のショートショート「魔人ビキラ」が、117話ぐらいで第一部を終了しています。
よかったら、読んでみて下さい。
ではまた明日、「蛮行の雨」と「続・のほほん」で。




