「ホシノさんの直感」の巻
玄関チャイムがなったので、リビングで受けるホシノさん。
「はい。どちら様で」
モニターには、作業服の男が映っていた。
「あのーー、お宅のノシ瓦、ズレてますよ」
と、男は言った。
ノシ瓦とは、棟に葺く細長い瓦の事だ。
(あっ、テレビなんかでやってる屋根瓦の補修サギ!)
ホシノさんは、ピンと来た。
「いえ、そういう事は、この家をリフォームしてくれた方にお任せしておりますので」
と、ホシノさん。
「ぼくは近所のリフォームに来ておりましてね、だからタダで見てあげますよ」
(うお! 上から目線! 絶対に危ないヤツ!)
「お断りします。この家のリフォームをしてくれた方も、タダで見てくれるんです」
それは本当だった。
「あなたみたいな事を言う人は、絶対に屋根に上げるな、と言われているんです」
それも本当だった。
「お帰りくださいっ!」
ホシノさんは、無事に業者を名乗る若者を追っ払った。
だが、ノシ瓦は本当にズレていた。
何故か和菓子で出来たノシ瓦だったからである。
いや、全部のノシ瓦ではない。
一枚だけが、和菓子で出来ていたのだ。
だが、ズレるのには一枚で充分だった。
築十五年。
ようやくノシ瓦がズレたのだった。
何という丈夫な和菓子であろうか。
和菓子ノシ瓦は、自分がノシ瓦のつもりで葺かれたのだろう。
屋根屋さんも、ノシ瓦と思って葺いたのだろう。
だから、なんでノシ瓦の和菓子が造られたのか、なんて詮索はやめておきましょう。
(ノシ瓦和菓子の)
のしがわら、わがしの!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
屋根瓦の補修サギ、らしき人には、何回か会っています。
「屋根瓦がズレていますよ」
が、基本です。
しかし、家をリフォームしてくれた業者さんに、
「絶対に、屋根に上げては駄目ですよ」
と言われておりましたので、
「この家をリフォームしてくれた業者さんに見てもらいますから」
と言って断りました。
そして、リフォーム業者さんに連絡して、屋根に上がって見てもらいました。
「大丈夫、ズレなんかありませんよ」
が、いつもの返事でした。
無料です。
お世話になりっぱなしの、リフォーム屋さんなのでした。
また明日、「続・のほほん」と、「蛮行の雨」で。
 




