「ヒロオ氏の特技」の巻
「え? ぼくがあの時ぶつかった人が、コンビニ強盗だったんですか?」
黒い帽子を被った男と、曲がり角で衝突した覚えがあるヒロオ氏は驚いた。
「そうなんです。覚えてらっしゃいませんかね、顔を」
警察官はおずおずとたずねた。
「ええっと、眼輪筋は、こんな感じだったかなあ……」
紙と鉛筆を取り出して、描き始めるヒロオ氏。
「な、なるほど。鼻は、どうでしたか?」
「鼻筋は、こんな感じ……」
「ううむ。唇はどうでしたか?」
「口輪筋はこう。口角下制筋は、こんな感じだったかなあ」
「そ……そうですか」
「あっ、下唇下制筋はこんな風に見えました!」
徐々に思い出したヒロオ氏だった。
「笑筋はこう! 頬筋はこう! 上唇鼻翼挙筋はこうだっ! うん、悪者面ですねえ!」
ヒロオ氏は、顔面筋肉占い師だったのだ。
(的確にも肉描きて) てきかくにも、にくかきて!!
「いやあ、鼻根筋まで思い出しちゃった!」
自分の描いた似顔筋肉絵を持って喜ぶヒロオ氏。
「どうですか! もう完璧ですよっ!!」
ヒロオ氏は自分の顔面筋肉の記憶力に酔った。
「ぼくって天才ですかっ?! へっへーーん!」
(何倍も威張んな) なんばいも、いばんな!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も、回文オチ形式のショートショート「続・のほほん」を投稿します。




