「アデノシン、参る!」の巻
アデノシンさんは、気が弱かった。
そして、女性が好きだった。
気が弱いため、見知らぬ女性でも、目の前に近づいて来たら、ドキドキしてうつむいてしまうのだった。
(自然にすれ違うんだっ!)
(変な人だと思われないようにっ!)
(誰か助けてくれっ!)
(わたしは女性を意識しすぎる平凡な男なのだっ!)
と、オイル切れのロボットのような歩き方になって、不気味がられるのであった。
しかし、日夜ニュースを騒がせている盗撮教師や、オサワリ議員のようなヘンタイ体質ではなかった。
ただただ気が弱く、そして女性が好きだったのである。
「で、私のところに?」
「はい。この気弱な性格をなんとかしたくて……」
「お任せ下さい。私の得意分野です」
性格改善カウンセラーは、胸を叩いた。
「まずこの、弱めの下剤『オシャベリオシーリ』を毎日飲んで頂きます」
「下剤?!」驚くアデノシンさん。
「お通じを良くして、気持ちを上げるのです」
「ははあ」納得するアデノシンさん。
「オナラが良く出るようになります。プピッ! このように」
「あっ。先生も」
「常用しております。お陰で対人恐怖症が治りました」
「なんと素晴らしい! では、わたしの女性恐怖症気味な気弱も?!」
「見事に治るでしょう。プププッ!」
と、笑うように放屁するカウンセラーだった。
そしてアデノシンさんが下剤を服用して数日。
快眠怪怪怪便の日日を過ごしていた。
(おおっ。あれに見えるは見知らぬ女性)
(よし、やるぞ。女性なんか怖いもんか)
カウンセラーの荒療治を実行に移す時が来たのだ。
「どひゃあ。なんて美人なんだ)
しかし尻込みする肛門を叱咤するアデノシンさん。
(相手にとって不足なし! 頑張れ、わたしの肛門!)
ロボット歩きで、その美女とすれ違いざま、アデノシンさんは勇気を出して屁を放いた。
(やったっ! 気弱なわたしが、美人を相手に放屁を!)
(見ろ。美女は鼻を押さえて逃げてゆくではないか!)
(勝った! わたしは勝ったのだ!)
それからアデノシンさんは、女性とすれ違う時にギクシャクしなくなったそうである。
ドキドキも無くなったそうだが………。
(やりたい事放いたりや)
やりたいこと、こいたりや!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も「続・のほほん」を投稿する予定です。
同じ、回文オチ形式のショートショート「魔人ビキラ」は、117話くらいで終了しています。
よかつまたら、読んでみてください。
ではまた明日、「続・のほほん」と「蛮行の雨」で。




