ビキラ外伝「イケない奴とビキラ」の巻
賞金稼ぎに追い詰められたおたずね者のアンズールは、居直って妖術で反撃する事にした。
アンズールは、回文妖術師であった。
倉庫の壁を背に、回文を詠唱した。
具現化し、その回文物体を操って攻撃するのだ。
「いかがですか素手が貝 (いかがですか? すでがかい!!)」
両手が二枚貝になっている男が詠唱と共に具現化し、魔人少女ビキラを見て、
「お前が敵かい? 小さくないかい? 可愛いくないかい? オレの勝ちだな!」
と、二枚貝をカパカパ鳴らしながら貝怪人は笑った。
しかし、追い詰めた賞金稼ぎビキラも、回文妖術師であった。
「面白い。相手になろう」
ビキラの肩の上で不敵に笑う相棒、古書ピミウォ。
そしてビキラは回文を詠唱した。
「絵画的手が烏賊 (かいがてき。てが、いか!!)」
両手がイカになっている男が具現化した。
某美術品評会で一位を獲得したAI絵画のようなイカが、ニョロニョロと左右合計二十本の脚をうごめかす。
実は二本は腕で脚は八本だそうだが、そういう細かい事はこの際、どうでもよろしい。
AI絵画であるから、ニョロニョロと動かしている脚が、二十一本になったり十九本になったりしている。
AI絵画あるあるである。
「ふむふむ。ワシは甲殻類は好きだが、貝はまだ食べた事はない。どれどれ、どのような味がするのであろうかのう」
言葉で一気に優位に立つイカ手の男。
「ひいい」
貝の両手を胸に当ててビビる貝手の男。
「こらっ、貝男!」
アンズールは自分の具現化物を叱った。
「行けっ! お前は強い! 貝毒もある! イカなんかに負けないっ」
魚を襲って食うイモガイを知っているアンズールは叱咤した。
「まず、スミで目を潰して、後は両手を丸呑みだ!」
と、イカ手男をけしかけるビキラ。
「く、くそっ。女の子の言う事じゃねえぞ、コラ!」
「グロ好きの女の子もいるもんね」
と、居直る魔人少女ビキラ。
やがて始まるイカ男と貝男の戦い?
一方的な蹂躙と言ってよかったが。
「頑張れ、貝男! オレが付いてる! あっ、足が危ない! 足も気をつけろっ!」
必死に自分の具現化した貝男を応援するアンズール。
背後が隙だらけであった。
ビキラの肩に乗っていた古書ピミウォがアンズールの様子を見て、コソッと降りた。
その古書ピミウォの背表紙が、アンズールの後頭部を叩き、昏倒させるのは、もう目に見えていた。
一方、気合い負けしてしまった貝男は、行っちゃえば
互角に戦える事を知らなかった。
(行かんらしい知らん貝)
いかんらしい、しらんかい!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
本編「魔人ビキラ」も、回文オチ形式のショートショートです。確か117話で、第一部が完結しております。
よかったら、読んでみて下さい。




