「引っ越し」の巻
引っ越しをした。
引っ越しをして、運び入れた段ボール箱は、まだ幾つもそのままにしていた。
もう半年になる。
引っ越しあるあるである。
そのまま四、五年、放置したままであれば、「もう要らない」という事になってしまうのではないか?
段ボール箱には「本」と書いてあった。
うん。本は読まなくなったもんなあ。
何を入れたっけ?
と思い、箱を開けた。
そして、子供の頃にファンだった作家の本を見つけた。
そうだ。なつかしい児童書だったので、入れたんだった。
何十年も読んでいないが。
その作家は、すでに他界していた。
なつかしくてページをめくっていると、枯れ葉色のシオリが落ちた。
シオリには、昔、有名だった男優の笑顔が印刷されていた。
その男優も、もはやこの世にいなかった。
ぼくはなんだか急に年老いたような気分になった。
ぼんやりしている所へ、妻がやって来た。
「どうしたの?」
と問われ、
「いや。古本を見ていただけ」
と答えた。
「あら。その男優さん、子供の頃、ファンだったのよ」
と、ぼくが手に持っているシオリを見て、妻が言った。
「なつかしいわね」
「うん。なつかしくて、ぼんやりしていた」
そのなつかしいシオリは、ぼくたちのアルバムに移動させた。
結婚したばかりの頃、親戚のおばさんに撮ってもらった写真が、最初のページに貼ってあるアルバムだ。
そのおばさんの家はもうないが、おばさんは元気だった。
(残り惜しい栞この)
のこりおしい、しおり、この!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も懲リズに「続・のほほん」を投稿します。
同じ回文オチ形式のショートショート
「魔人ビキラ」は、117話あたりで第一部が終了しています。
よかったら、そちらも読んでみて下さい。
ではまた明日、「続・のほほん」と「魔人ビキラ」で。