ビキラ外伝「侵入したいビキラ」の巻
悪党どものアジトに侵入しようとした魔人少女ビキラであったが、見張りの多さに思いとどまった。
「困ったわね、岡っ引きたちに、中の様子を調べてくる、と啖呵を切って出て来たのに」
茂みに隠れて思案するビキラ。
「何かで眠らせれば良いのではないか?」
と、肩の上の相棒、古書ピミウォ。
「『ナニか』って何よ。もっと具体的に」
「そ、そこは自分で考えるのじゃ、ビキラよ」
「中身のない管理職みたいな事言わないでよ、聞いていて恥ずかしいじゃないの」
「いや、学校の教師の真似をしたんじゃが」
苦しい時の回文頼み。
回文妖術師ビキラは、回文を詠唱した。
「甲斐甲斐しい医師意外か (かいがいしいいし、いがいか?!)」
回文妖力によって具現化した医師が言った。
「どうしました? マスター」
「悪党のアジトに潜入したいんだけど、見張りが多くて無理っぽいのよ。なんとかならないかしら?」
「わかりました。お任せ下さい」
医師はそう言うと、風上に回り込んで行った。
しばらくすると、ぱたぱたと見張りが倒れてゆくではないか。
「おおっ? どんどん手薄になってゆくぞ、ビキラよ」
「えええ? 何か吸い込んだのかしら?」
「ああ、これじゃな。甘い香りのするガスが漂って来たぞ」
「あっ、麻酔ガスかしら? 頭がボーーッとして気持ち良い」
見張りと一緒にビキラとピミウォも眠ってしまったが、甲斐甲斐しい医師がアジトの中を調べて来たので、特に問題にはならなかった。
岡っ引きたちの、悪党一網打尽作戦には大いに役立ったからである。
術者はともかく、具現化物は、そこそこ優秀だったのだ。
意外にも。
(手薄になる何吸うて)
てうすになる。なにすうて?!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も回文オチのショートショート「続・のほほん」を投稿します。
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」本編は、第一部を終了しています。
外伝と同じく、回文オチのショートショートです。
よかったら読んで見て下さい。
ではまた明日も、「続のほほん」と「蛮行の雨」で。