ビキラ外伝「ビキラ、ジャンケンに負ける」の巻
おたずね者バッフンは、叫んだ。
「それ以上近づいてみやがれ、この名物『おにぎり石』を崖から落とすぞ!」
崖の端にあり、落ちそうで落ちずに立っている街道の名物。
全高五メートルほどのタワラ型岩、『おにぎり石』だった。
「待て! これ以上罪を重ねるつもりか!」
魔人ビキラは言った。
バッフンをここまで追って来た賞金稼ぎビキラであったが、「おにぎり石」を崖から落とされては、元に戻すのにどれほどのお金が掛かる事か。
しかも、連帯責任で半分くらいは、ビキラが金を払わされるのは目に見えていた。
「どうする、ビキラ」
肩の上の相棒、ピミウォが問う。
「どうするって、ここまで来て逃がすのは嫌よ」
即座に言い返すビキラ。
「では、一か八か、『ジャンケン作戦』でいこうぞ」
ピミウォはそう言い、
「ジャンケンして、お主が勝ったら、ここは大人しく引き上げよう」
と、バッフンに向かって叫んだ。
「お、おう。それは本当だな? よし来い! ジャンケンは得意だ!」
(人はリキむと『グー』を出す傾向にある)
を信じているバッフンだった。
「ジャンケンじゃ、ビキラよ」
「お、おうっ!」
ビキラは、ビッキビキにリキんだ。
「最初は、プウ!」
そう言って、お互いにオナラをするビキラとバッフン。
オナラが出ないと、ここで負けてしまうのだった。
「ジャーーンケン、ポイッ!」
「よしっ、オレの勝ちだ!」
手の「パー」を突き上げるバッフン。
「ま、負けちゃったあ!」
手の「グー」をぷるぷる震わせるビキラ。
しかしそれは、ピミウォの作戦通りだった。
「そちらの勝ちだ。『おにぎり石』は、五歩進んで良いぞ!」
いきなりそう言われて、「おにぎり石」はあせった。
(五歩進むって、そんなに歩いた事ないよ)
おにぎり石は歩くために、思い切り身体を傾けた。
おたずね者バッフンは、プチッ! と快音を発して潰れた。
「あーー、殺すつもりはなかったけど」
「逃がすよりはマシじゃ。『おむすび石』も崖から落とされずに済んだ」
安堵するビキラとピミウォ。
それから、崖の上の『おむすび石』は、ゆらゆら揺れるようになった。
転ぶようで転ばない、「ユラユラおむすび石」になったのだ。
おにぎり石はいつまでも、ピミウォの、
「『おにぎり石』は五歩進んで良いぞ」
を覚えていたからである。
(傾いだ石か)
かしいだいしか?!
お読みくださった方、ありがとうございます。
回文オチのショートショート「続・のほほん」は、明日も投稿します。
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」本編は、第一部を終了しています。
回文をオチとした、同じ形式のショートショートです。
よかったら、ご覧になってみて下さい。
ほなまた明日も、「続・のほほん」と「蛮行の雨」で。