「一心なタスケ」の巻
青信号が点滅していた。
そのヨチヨチ歩きのお婆さんは、横断歩道を半分も渡ってはいなかった。
その様子を見たタスケは、
「おっと、こいつはいけねぇや!」
と叫ぶと横断歩道に飛び出して、お婆さんの横に立つと、片手を上げた。
横断歩道を、お婆さんと一緒に渡ろうと言うのだ。
抱いて渡った方が早いと思われたが、
「自分の足で渡り切る事が大切!」
と思っているタスケだった。
「たとえアカの他人であろうが、人間としての義理を大切にしなければならぬ」
「道理、条理をオロソカにしないのが、人間の本分である」
などと考えるタスケは、
「鬱陶しい!」
と言って良いほどの、義理堅い人間であった。
そんなタスケは、歩道で転ぶお爺さんを見た。
「おっと、こいつはイケねぇや!」
まだ横断歩道を渡り切っていないお婆さんを、ソッとそこに置いて、転んだお爺さんに駆け寄るタスケ。
「大丈夫ですか、お爺さん。なに? 杖がない? ようがす、そこらの街路樹の枝を折ってきやしょう。樹も、お爺さんの役に立てるのなら、枝の一本や二本、気前良く差し出すでしょうよ」
そして街路樹に走り寄って、叫び声を上げるタスケ。
「ややっ、お前はもしや胴枯病?! コイツはいけねぇや!」
腕まくりをするタスケ。
「待ってろ。今、患部を削り取ってやる!」
瘤のように膨れ上がった樹皮を、ベリバリ! と音を立てて剥がし始めるタスケ。
「しっかりするんだ。気を確かに持て!」
病気の街路樹を励ますタスケだった。
タスケは大変に義理を大切にする人間だった。
そして世界に類を見ない移り気だった。
(移り気な義理通)
うつりぎな、ぎりつう!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も、回文オチのショートショート「続・のほほん」を投稿します。
よかったら、読んでみてください。




