ビキラ外伝「ビキラと酒場」の巻
「ふん。誰も彼も、聞いた通り貧乏臭い顔をしているわね」
魔人少女ビキラは、街の警備隊に頼まれて潜入捜査を引き受けたのだ。
そうしてやって来たのが、この場末の酒場だった。
「お嬢ちゃん、何にするね?」
頬に傷のあるゴツい給仕が聞いてきた。
「水!」
間髪を容れずに答える魔人ビキラ。
「あ、おう。水な」
ビキラの眼光に圧倒されて、言い返さない荒くれた給仕。
フロックコートの紳士がやって来て、ビキラに、
「お嬢ちゃん、殺して欲しい奴がいるんだが」
と言った。
「悪いわね。あたしは魔獣専門なの」
と、断るビキラ。
ゴスロリの女性がやって来て、ビキラに、
「私の恋の手助けをして欲しいんだけど」
と言った。
「悪いわね。あたしは失恋専門なの」
と、断るビキラ。
道化師の衣装と化粧をした人物がやって来て、
「どや。わてらと一緒に世界征服してみいひんか?」
と言った。
「世界を破壊するなら、オッケよ」
と、断るビキラ。
魔王がやって来て、ビキラに、
「余の部下になれば、世界の半分をお前にやろう」
と言った。
「宇宙の半分じゃなきゃイヤ」
と、ビキラは断った。
(良く見たら、皆んな高価そうな衣服を着てるし、良いモノを食べてるし、話と違うわね)
と、気がつくビキラ。
そこへ、潜入捜査の相棒がやって来た。
古書のピミウォである。
「どうじゃ、ビキラ。何か分かったか?」
「なんか、変な依頼をしてくる人が多いわね。それと、皆んなちっとも貧乏じゃないわね」
「ん? ん? ビンボーは依頼とは関係ないじゃろう」
「だって、貧乏渦巻く酒場だって……」
「うっ。陰謀じゃ。陰謀渦巻く酒場の捜査じゃ、ビキラよ」
「どひゃあ!」
「ご注文の水です」
荒くれ者の顔をした給仕が水を運んで来た。
「さては、お前が黒幕だなっ!」
「えっ? な、なんの話ですか?」
成り行きで給仕を逮捕したが、黒幕ではなかった。
陰謀酒場は、捜査官を試すテスト場だったのだ。
ビキラは不合格となり、性に合った、やさぐれ賞金稼ぎに戻った。
ビキラは今日も、のびのびとおたずね者を狩っている。
(聞き損ねこそ危機)
ききそこねこそ、きき!!
お読みくださった方、ありがとうございました。
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」本編は、
第一部を完結しています。
外伝より少し長いですが、回文オチは同じです。
よかったら、読んでみてください。
明日も「続・のほほん」を投稿します。
なんで、
「毎日更新しています」
と書かないかと言うと、書いた途端に休んでしまった事があるからです。
ではまた、明日。のほほん、で。




