ビキラ外伝「ビキラ、みつがれる」の巻
「お嬢さん、良いお天気ですね。どうです? ぼくと一緒にお茶でも」
名も知らぬ街を歩いていて、名も知らぬ若者に声を掛けられる魔人少女ビキラ。
「何、言ってんの。さてはあなた、おたずね者ね」
「な、何を言うんですか、お嬢さん」
ジゴロとして名を売ろうとしていたものの、まだ、おたずね者までは出世していないガパスは驚いて言った。
「あたしの名はピッキラ」
と偽名を使うビキラ。
「賞金稼ぎよ。賞金稼ぎとしての鼻が、あなたはおたずね者だと言ってる」
「い、いやそんな事はありません。お嬢さん、今日は風邪気味で、鼻が詰まってらっしゃるのでは?」
ザパスの誤魔化したい一心で言った言葉に、
「そう言われるとそんな気が……」
と納得するビキラ。
「まあちょっと、屯所に行って、身の潔白を証明しなさいよ」
「いやいやいや、そんな無茶な」
街のならず者として自覚のあるザパスは慌てた。
しかしまだ、前科がある訳ではない。
被害者には、ザパスの親が大金を握らせて、黙らせてきたからである。
「まあまあ、お嬢さん。美味しい物でも食べて、楽しく行きましょうよ」
まず、エサを撒き、しかるのち貢がせる。
ジゴロの基本である。
(この小娘、旅の賞金稼ぎか? この程度が落とせないで、この先、ジゴロもあるまい)
と考えているザパスだった。
そこへ、買い物から帰って来る相棒の古書ピミウォ。
「ちょっと目を離したスキに、もう捕り物か? せわしないのう、ビキラよ」
「見ず知らずのあたしに、お茶を奢ろうとしたのよ、この若い人」
「自覚はなかろうが、殺気がなければソコソコ可愛いからのう、ビキラは」
「取って食おうとは言わないから、一緒に警備隊の屯所に来なさいよ」
「な、なんでい。ぼくが何をしたって言うんでい」
「あたしに声を掛けて、お茶を奢ろうとした。それで充分よ」
「そ、そんな無茶な!」
ビキラは力づくでザパスを屯所に連れて行き、
「こいつ、怪しいから」
と言う理由で、力づくで、金で片付けてきた悪事を白状させた。
屯所も、「旅の無頼漢」が勝手にやった事。
として、屯所の拷問を否定した。
ザパスが牢屋を出て陽の光に当たる事は、二度となかった。
力がまだ正義としてまかり通っていた時代の、ノンキな話であった。
(私に貢ぐ罪にしたわ)
わたしにみつぐつみに、したわ!!
お読みくださった方、ありがとうございました。
明日も「続・のほほん」を投稿します。
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」本編、第一部は完結しています。
外伝より少し長いショートショートですが、回文オチは一緒です。
よかったら、のぞいてみて下さい。




