「白い部屋のファルルン」の巻
白い壁。
白い床。
白い天井。
窓のない部屋で目覚め、勇者ファルルンは、驚いた。
「こ、これは一体、どうした事か?」
両手で叩いて身体(身体)を確認するファルルン。
「生きている? 何故だ? 魔王ヴレームトに殺されたのに?!」
立ち上がるファルルン。
「ここは転生の部屋か? もう一度、魔王討伐にアタックしろと言う事か?」
「否! お前は死んだ。今後はダンゴ虫に生まれ変わり、おだやかな余生を過ごすが良い」
部屋に声が響いた。
美しい声だった。
「虫? 虫は嫌だ。もう一度チャンスをくれ!」
白い天井に手を伸ばして叫ぶファルルン。
「そうとも、チャンスは何度でもある。騙されるな。これは魔王の幻覚だ」
もうひとつの声が、ファルルンに聞こえた。
耳障りな声だった。
「否。それこそが魔王の囁きである。騙されるなファルルン」
と、美しい声。
「ダンゴ虫が嫌なら、クマムシにしてやろう。苔に埋もれて静かに過ごすが良い」
「いや、我こそが正しい声。もう一度、魔王を倒すチャンスをやろう」
と、耳ざわりな声が言った。
「壁に体当たりをして、突破するのだ。さすれば独房は破壊される」
「壁に? これは魔王の幻覚ではなかったのか?」
「否。あなたは独房に囚われてしまったのよ」
第三の声が言った。
母の声に似ていた。
「おかあさん!」
思わず叫ぶファルルン。
「壁だ! 壁を破るのだ!」
「さあ、この独房で、お母さんと一緒に末永く暮らしましょう!」
独房に花畑が現れ、遠くに田園が見えた。
「あああああ! 頭が痛い!」
魔王は四本の腕で頭を抱え、呻いた。
「魔王様がまた幻聴にうなされておられる。なんとかならぬのか」
副官のバパンガが心配そうに言った。
「否。幻聴ではない。魔王様は勇者であった頃の記憶を取り戻そうとしておられるのだ」
軍師ジャースマンが言った。
「もはや殺すしかない。勇者に覚醒されたら、我々では勝てないぞ」
「そっ、それは本当か、ジャースマン」
「本当だ、バパンガ。しかし勇者魔王を倒し、お主が新たな魔王となれば、何も問題はない」
軍師ジャースマンは、副官バパンガにささやきかける。
「さあ、魔王様と、魔王様の中の勇者ファルルンを殺すのだ」
「否!」
と叫んで、副官バパンガは軍師ジャースマンを斬り殺した。
血のしたたる大剣を下げ、
「魔王の副官はもう飽きた。次は勇者に仕えてみたい」
と、バパンガはつぶやいた。
(類がない否が居る)
るいがない「いな!」が、いる!!
お読みくださった方、ありがとうございました。
明日も「続・のほほん」を投稿します。
懲りずに読んでもらえると、嬉しいです。
玄関にブラックキャップを置いたら、ダンゴ虫の死骸が日に日に増えております。
仲間の死体を乗り越えて、なんでブラックキャップに突入するか?
危ない!? って気がつけよ。
そんなゾワゾワした景色が着想なのは、内緒です。
ではまた明日。




